144MHzリニアアンプ                       戻る

はじめに(2017/8/18)
144MHz0.3WのハンディSSBトランシーバー144H4機は移動や固定で使っていますが、DX局になると非力さを感じることがあります。先日も高知県安芸郡の移動局(距離185km)を自宅の8mH1/4λGPから0.3Wでコールすると聴き取りが苦しい様子なので、144S5機(3W)にリグを変更して57でQSOができました。今回はもうちょっとパワーが欲しい時のリニアアンプを作ることにします。

リニアアンプとは(2017/8/25)
リニアアンプ(直線増幅器)とは入力に対し出力が直線的に増幅されるもので、歪のないものが理想とされています。仮に入出力の関係が直線でない場合は歪が発生し、スプリアス(不要輻射)の原因になります。またバイアスの方式により動作はA級、B級、C級に分類されます。リニアアンプとしてはA級動作が理想ですが、アイドル電流を多く流さねばならず無信号時でも損失が大きいため、現実的にはA級とB級の間のAB級動作をさせることが一般的です。(*1)

 (*1)

アイドリング電流と直線性(2017/8/25)
リニアアンプはAB級で動作させるのが直線性と効率の意味から望ましく、そのためのアイドリング電流は最大コレクタ電流の1/20以上となっています。また温度補償ダイオードには最大コレクタ電流の1/10〜1/5のブリーダ電流を流し、信号が入ったときのベース電流によりバイアス電圧が変調されないようにしておくことが必要です。(*2)

2Wのアンプで12Vにおける能率が50%の場合

  1. 出力電力=コレクタ電圧×コレクタ電流×能率=12×0.333×0.5=2W
  2. アイドリング電流=0.333÷20=0.0167A=16.7mA(以上)

これまではなんとなく20〜30mA流しておけばいいかと思っていましたが、1Wのアンプでも50〜70mA流すという文献(*3)もあるため、1KΩの半固定抵抗を変化させて2SC1971のアイドリング電流を15,30,50,80mAの4段階に設定し、そのときの特性を調べてみることにしました。

測定手順

  1. スイッチをQRPパワー計(1)に切替える。
  2. 低周波発振器にて144MHzトランシーバの出力を10mWに設定する。
  3. スイッチをリニアアンプ側に切り替えてQRPパワー計(2)の目盛りを読み記録する。
  4. 144MHzトランシーバの出力を10、30、50、100、150、200mWに変化させ測定を繰り返す。

 QRPパワー計はFCZ研のものを2個使用

 アイドリング電流を変えて直線性を測定

アイドリング電流による直線性(2017/8/25)
アイドリング電流が15mAの場合は直線性が良くはありませんが、30mA以上になると直線に近くなっていきます。

 

下のグラフはアイドリング電流50mAにおける入出力特性を上のグラフから抜き出したもので、ピンク色の線は補助線として引いた直線です。測定器の誤差や測定誤差によるズレはあると思いますが、ピタリとは一致しませんでした。このカーブがきつくなるとクロスオーバー歪と呼ばれ、モニタすると鼻づまり音に聞こえるというものです(*4)。更にアイドリングを流せば特性は改善されると思いますがロスも増えるため、この辺で落ち着いておくことにします。

◆リニアアンプの回路図(2017/8/18)

  1. 2SC1971を使い入力電力を約8倍に増幅します。
  2. 入力0.3Wに対し出力2W程度を想定していますが、入力を増やせばこの回路で5W以上も可能と思います。
  3. 入力と出力には12Vのリレーを使い、電源ON時は増幅を行いOFF時は信号がスル−するようになっています。
  4. トランシーバーのアンテナ端子には数10KΩを通して送信時の電圧を加えておき、リニアアンプの送受切替ができるようにしておきます。
  5. 上記電圧を2SC1815で受け、2SA950/2SC2120にて送受切替を行います。
  6. 出力は検波後に1段増幅しLEDを光らすことで確認するようにしました。
  7. 電源は外部から12Vを供給しますが、その線に電波が乗って外部の装置に悪影響が出ないようフェライトビーズFB801をいれました。

 赤丸部の47kΩを通してリニアアンプの送受切替えを行う

ケースとプリント基板の設計(2017/9/1)
プリント基板は90×50mmのガラエポを使い、2SC1971はフィンをケースに取り付けて放熱させるため、基板に12×16mmの切り欠きを設けます。ケースは基板やコネクタが収まるように112×65×28mmとし1mmのアルミ板で作りました。

 

調整方法(2017/9/8)

  1. INPUT端子に144MHzのトランシーバ、OUTPUT端子にはパワー計を接続する。
  2. 電源端子に12Vを供給する、
  3. トランシーバーを送/受切替え、リニアアンプも送/受切替ができるかを確認。
  4. アイドリング測定端子にテスター(100mA以上の電流計に設定)を接続する。
  5. トランシーバーを送信状態にし、アイドリング電流が50mA程度であることを確認する。
  6. トランシーバーのマイク端子に接続した低周波発信機のレベルを上げたとき、リニアアンプ二接続したパワー計の針が振れることを確認。
  7. TC1〜TC5を回してパワー計の振れが最大になるようにする。入力電力が0.3Wであれば出力は2W程度になります。
  8. VR1を回し、音声にしたがってLEDがピカピカ光る位置に設定する。


FT817の144MHz出力をリニアアンプで増幅したときのFFT波形(X軸の1目盛りは50MHz)


◆運用実績

親機は144H4機、アンテナは8mH 1/4λGP を使用

日付

相手局

MY

HIS

 当局運用地

相手局運用地

距離(km)

2017/8/19

JM3ROY/3

59

59

 兵庫県伊丹市(自宅) 

和歌山県海草郡有田川町(生石高原)

80

             
             

<完了>


◆参考文献(*印)

  1. リニアアンプスタイルブック CQ出版社
  2. アマチュアのU・VHF技術 CQ出版社
  3. 高周波回路の設計・製作 鈴木憲次著 CQ出版社
  4. SSBハンドブック CQ出版社