144MHzSSBハンディトランシーバー                                            戻る

◆はじめに(2011/09/17)
単4ニッカドの容量は220mAHでしたが、’97年頃に550mAHの単4ニッケル水素を千石電商で見つけ、これを活かしてみようと充電池内蔵小型トランシーバーとして1998年に1号機、2001年に2号機を作りました。バッグにトランシーバとマイク、ロッドアンテナを放り込んで小高い所に行けばすぐに運用できるのは小型トランシーバーならではのもので、出張や旅行のお供として各地へ連れて行きました。しかし2号機を作ってから10年が経過し、そろそろ新しいものを作りたくなりました。

 (左)1号機 (右)2号機 左端は単3電池


本機の特徴(2011/09/17)

  1. 充電池内蔵のコンパクトな144MHzSSBトランシーバーでロッドアンテナとマイクを接続すれば即運用できる。
  2. 同調には4.5:1の減速機を使iい容易にチューニングできる。
  3. 充電池の電圧が6V以下になるとLEDが点灯し充電のタイミングを知らせてくれる。
  4. VXOとクリスタルフィルタの水晶は市販の安いものを使用。
  5. 夜間運用や非常時に便利なLED照明付き。
  6. ケースはアルミ板で自作。

仕様(2011/09/17)

  1. 周波数 : 144.130〜144.270MHz
  2. 送信出力 : 250mW
  3. 終段 : 2SC2055
  4. 受信部 : 高1中2シングルスーパ
  5. 中間周波数 : 12.288MHz
  6. サイズ : 幅11×高42×奥行100mm (突起部を含まず)
  7. 電源電圧 : 7.2V(動作電圧 6〜8V)
  8. 充電池 : 単4エネループ(800mAH)6本
  9. 消費電流 : 最大200mA(送信最大入力時)、最小30mA(受信無信号時)
  10. 質量 : 約400g(マイク、ロッドアンテナを含まず)

リグの形状は2号機を踏襲(2011/09/17)
1号機は小型にまとめた分、基本的な機能に限られています。2号機は1号機の反省を踏まえ、同調用減速機や電圧降下検出回路などの機能を追加したため若干大きくはなりましたが、使い勝手はよくなりました。今回の3号機は2号機の機能を踏襲し、この10年で積み重ねた経験を回路や部品、パターンに組み入れようと思います。

周波数構成(2011/09/17)
通販で購入できる水晶からVXOは44MHz、クリスタルフィルタは12.288MHzとします。VXOは基本波で発振させるため表示周波数の1/3にあたる14.667MHzとなり、VXOでは14.649〜14.665MHzまで可変することで144.130〜144.270MHzをカバーします。2011年9月現在水晶の価格はサトー電気の通販で、44MHzは126円、12.288MHzは53円です。


試作機で回路を検討(2011/09/17)

回路は144H5機をベースとしているため説明はそちらをご覧いただくとして、ここでは変更した部分について解説します。

 7.2V仕様の試作機

電源電圧は7.2V(2011/09/17)
コンパクトにまとめるには電池本数を減らしたいけれど、電圧が低ければ出力が出ないし、リニヤな増幅ができないなどの制約があるため、中をとって単4の充電池6本で7.2Vとしました。送信(平均150mA):受信(平均35mA)=1:3とすれば消費電流は65mAほどになります。800mAHの充電池を使えば計算上は12時間の運用が可能で、仮に半分としても6時間も持てば私の場合は十分といえます。

単4エネループを採用(2011/09/17)
2号機で寒い日に屋外で運用したとき、すぐに電池切れのLEDが点灯したので運用を早々に切り上げたものの、家に帰って暖かい部屋に入ると復活したという苦い経験から、寒さに強い三洋のエネループを採用します。継ぎ足し充電もできるという優れもので、中途半端に電池を消耗したときは、減った分を充電しておくこともできます。また充電端子がついているので、太陽電池から補助的に充電すれば長時間の運用が可能です。

終段の石(2011/09/17)
QRP機の終段は2SC2053が定番ですが今回は電圧が7.2Vということもあり、より低電圧でも働く2SC2055としました。175MHz、7.2Vにおいて250mWという定格です。

スタンバイ回路(2011/09/22)
144S5号機のコンプリメンタリトランジスタを使ったスタンバイ回路では受信時での電圧降下が1Vほどあり、電源電圧が12Vの場合はさほど気になりませんが、7.2Vで電池駆動となると電圧降下は少なくしたいものです。そのため部品は少し増えますが2SA950を2個使った回路にすることで電圧降下は0.1Vほどになります。

アンテナ切り替え部(2011/09/22)
リレーでは消費電流が多いため、アンテナスイッチによく使われているMI301を2個使った回路で実験しました。送信出力250mWのときダイオードに流す電流が2.5mA以下になると出力の低下がみられたため、3mA以上流すように抵抗値を選びました。

電圧降下検出回路(2011/09/22)
ニッケル水素は1.2Vが基準電圧ですが、充電のタイミングは0.9〜1Vであり、6本であれば5.4〜6Vの時です。したがって電源電圧が6Vになった時、LEDが光るように5KBの半固定抵抗を設定しています。LEDは自己点滅の赤色を使い電圧降下を検出して点滅するため、警告用としては効果的と思います。

チップコンデンサの採用(2011/09/22)
小型化のため基板のサイズを100×60mm(一部切り欠きあり)にするとパターンを描くのが苦しくなるため、バイパス用の0.01μF(103)はチップコンデンサを使うことにします。

タイマー式LED照明(2011/10/10)
夜間運用や非常時に手元を照らすタイマー式のLED照明をつけることにします。プッシュボタンをONするとLEDが点灯し(消費電流18mA)、その後数十秒かけて徐々に電流が減り1分後には消灯します。消灯時の電流は1μA以下なので電池の消耗は気になりません。またプッシュボタンを押し続ければ明るい状態を維持できます。電球色のLEDは白色に比べ光が目に優しい感じがするため採用することにします。

手元照明用LEDを探す(2011/11/05)
手元照明としては砲弾型のような指向性の鋭いものより、広域を照らせるものが好ましく思います。秋月で購入した角型のLEDは10個400円と安く、半減角が60度というもので砲弾型に比べると指向性は少ないですが、もう少し広い範囲を照らすものはないかと更に探すと日本橋の千石には半減角120度(だったかな?)で@200円というものがありました。先端のレンズ部分のでっぱりが少なく広域を照らすことが出来るようになりました

 電球色角型LED (左)秋月 (右)千石 で購入


設計編

全体の構造(2011/10/08)
ケースのスペースを有効に使うため、基板はSSBジェネレータ部とトランスバータ部の2枚にわけ、部品面が外側になるように取り付けます。正面パネルにはツマミ、コネクタ、メータ、LEDを、また底板には単4の充電池を6本取り付け安定感を持たせるようにしました。手前側のフタにはスピーカとLED照明を取り付けます。

プリント基板の設計(2011/11/23)
100×60mmのプリント基板(一部切り欠きあり)に組み込みます。回路図中に多数ある103(0.01μF)はチップコンデンサを使い小型化に対応します。リード線が無くパターンに直接半田付けするので高い周波数には都合いいのですが、気をつけないと取り付けを忘れてしまうこともあります。パターン図の黄色は共通部、青色は送信部、赤色は受信部、灰色はアース部、緑色はAGC部で、点線はジャンパ線を示します。基板の幅がカットの都合で1mmほど短くなってしまう場合もあるため、あらかじめ99×59mmで設計しています。


製作編

◆ケース作り(2011/10/21)
正面パネルと底面パネルは1.5mm厚、他は1mm厚のアルミ板を使います。コの字型に曲げた左右の側板に2mmのビスで正面と底面のパネルを取り付け、中央シャーシの表裏面には同じサイズにそろえたトランスバータ部とSSBジェネレータ部のプリント基板を取り付けます。各部材には上下、前後を示す↑マークや、A・B・Cなどの文字をマジックで書いてどの部分とどの部分を合わせるかを表示し、勘違いによる加工ミスをなくします。

 

同調部の減速機構(2011/10/15)
秋葉原の国際ラジオで買った4.5:1のボールドライブ減速機(1500円)は小型に作られており、コンパクトなトランシーバーにはうってつけですが、すでに生産中止となったのは残念なことです。これにポリバリコンを直結しますが、芯ずれや軸の傾きにより回転が渋くなるのを緩和するため、ポリバリは3mm厚のゴム板に取り付け、ケースから出したL型の金具に固定します。この減速機の難点は目盛り板を固定するネジ穴の無いことですが、ここはアイデアを発揮し直径9.5mm長さ5mmほどの回転部分に丸く切ったダイヤルを上下から水道用のパッキン(PP40)で挟み込むことにしました。これによってツマミを回せば目盛り板はゆっくり回転します。ダイヤルは白色の塩ビ板を丸く切り取りそこに目盛りを入れます。位置を示す指針は2mmのアルミ板をハンドニブラで三角に切り取ってヤスリで整形し、中央に2mmのタップを立て正面パネルの裏からビスで引っ張り締めしています。

  

  

◆電池ケース(2011/10/08)
144h3機では単4を6本使いますが、6本用の電池ケースは市販されていないため、3本用ケースの端を切りケースの底板にねじ止めし、2個つないで使うようにしました。こうすることで3本用を2個使うよりも全長を8mmほど短くすることが出来ます。また電池を底板に取り付けることで重心が下るため、リグを置いたときの安定感が増します。

 

◆タイマー式LED照明と電圧降下検出回路の基板(2011/11/13)
タイマー式LED照明と電圧降下検出の基板はトランシーバー本体とは別基板とし、空きスペースを有効に使おうと同調用減速機を取り巻くような形にしました。

  1. LED照明 : 点灯用の押しボタンを押すと明るく輝き、30秒過ぎたあたりから徐々に光量が落ち、1分後には完全に消灯します。点灯時の消費電流は18mA、消灯時は1μA以下なので電池の消耗は気になりません。
  2. 電池電圧降下検出回路 : 電池の電圧が6Vを切るとLEDが点灯するよう半固定抵抗を設定します。

 

 

トランスバータ部とジェネレータ部の基板製作(2011/12/02)
設計したパターン図をCAD上で裏返す→プリントする→基板に貼る→千枚通しで印をつける→穴を開ける→銅箔を磨く→マジックでパターンを描く→エッチングする というステップを経て基板が出来上がりました。ジェネレータ部は安い紙フェノール基板ですが、トランスバータ部は周波数が高いので奮発してガラエポ基板を使いました。

部品を取り付ける(2011/12/4)
基板の四隅にM2×20mmのビスを立てることでそれが足となり、半田付けのときに基板が安定します。トランスバータ部ではチップコンデンサを多用しているため、つけ忘れが無いように気をつけます。

試験台に乗せて動作確認をする(2011/12/11)
基板への部品取り付けを終えると次は試験台に乗せて動作確認をします。以前は基板が出来上がるといきなりケースに取り付けていましたが、うまく動作しないと基板をはずして部品交換し、また取り付けていたため、これが続くと面倒になってしまいます。こんなときに基板の裏がオープンで部品交換が容易な試験台は便利な道具です。


トラブル対策

VXO部の異常発振対策(2011/12/17)
問題としてVXOの異常発振があり、VCをまわすと出力が不安定に上下し周波数飛びも起きています。こんなときはVXOコイルと平行に入れている33KΩの値を減らせば収まるのですが、今回はそれだけではすまなかったため、発振部の石を2SC1906から2SC1815に変更することにしました。

◆Sメータの振れが悪い@(2011/12/24)
基板化した144H3機のSメータの振れが試作機に比べて悪いため原因を調べることにしました。使っている増幅素子は以下のとおりです。

  1. 試作機 (RF)2SK439F-(MIX)2SK439F-(IF)2SK241GR-(IF)2SK241GR-(AF)2SC1815BL-(AGC)2SC1815BL

  2. 基板機 (RF)2SK439E-(MIX)2SK439E-(IF)2SK241Y-(IF)2SK241GR-(AF)2SC2458Y-(AGC)2SC2458Y

ちなみに2SC2458と2SC1815はパッケージの大きさが違うだけで性能は同じです。2SC2458のYとBLのhfeを実測してみると、Y=150、BL=350であり、2倍強の差がありました。2SK439のEとF、2SK241のYとGRでも1.何倍かの差はあると思います。これらが直列につながって掛け算した結果がSメータの振れの差となっており、増幅度大の素子に交換することでS目盛りにして3つほど増えたものの、消費電流も増えました。今回特にYを選んだわけではなく、たまたま手に触れたものがYだったわけで、HF機ならばさほど気にならないことが144になると大きな差になることを実感しました。

 
(左)試作機と基板機の性能を比較 (右)2SC2458のYとBL

Sメータの振れが悪いA(2012/1/14)
試作機に比べるとSメータの振れが悪いため、その原因を調べています。350μAのメータにはダイオードを並列接続し、0.2Vを超えるあたりからダイオード側に電流を分岐することで針の振り切れを抑えるようにしています。試作機ではゲルマ(1N60)を使っておりS9あたりから分岐が始まりますが、基板機のショットキーバリヤ(1SS108)ではS5あたりから始まるためメータの振れが悪くなっていました。ゲルマと特性が似ており小型なのでショットキーバリヤを使いましたが、針の振り切れ防止に関しては動作が違うようです。

基板を押すとガリガリというノイズが出る(2012/01/06)
トランスバータ部の基板を押すとガリガリというノイズが出て、受信感度がガクリと落ちるという現象がありました。基板を穴の開くほど眺めてみても悪い部分は見つからず、もしかしてチップコンデンサに異常があるのかと、パスコン(103)を並列につないでみると感度が上がりました。原因はここにあるのかとチップコンを外してみれば電極が取れていました。最初の半田付けのときか、あるいは部品交換をしていたときに無理な力がかかって外れていたのでしょう。新しいチップコンに交換して問題は解決しましたが、つけたりはずしたりと試行錯誤する場合、チップ部品の扱いは要注意です。

 

アンテナ端子から0.5mWほどのキャリヤもれ(2012/01/20)
送信にすると0.5mWほどの出力が常に出ていました。BPFの10Pトリマを回して周波数を高い側にずらすと出力が若干増えるため、144MHzよりも高い成分であろうと推測出来ます。VXO部ではオーバートーン水晶の基本波(14.667MHz)で発振させ、9逓倍して132MHzを作っています。しかしコイルの調整を間違うと132MHzだけではなく、それ以外の周波数成分も出てきてしまいます。おそらくVXOの基本波の10倍波が送信段を通り抜け、アンテナ端子まで出てきているのだろうと思い、T11、T12のコアを回して同調周波数を下げるように再調整したところ0.5mWの出力はほとんどゼロになり、なおかつ送信出力は250mWを確保できました。


基板をケースに収める(2012/02/03)
昨年の9月から製作を始めた144h3機ですが、当面の問題は解決できたので、基板をケースに収めました。今後は運用を続けながら更にブラッシュアップして行こうと思います。

 

<完了>