ディップメータの製作 戻る
◆はじめに(2012/8/11)
デリカ(三田無線)のHAM用ディップメータ(@8000)が欲しくても買えなかった1960年代。そしてFETというものが世に出回り始めた1970年に製作したディップメータは、三菱のMK10(当時@280?)という市販第1号のFETを使って作りました。周波数カウンタを持っていなかった当時、一番の課題は目盛り作りでしたが、身の回りにある中波ラジオ、短波ラジオ、FMラジオ、テレビを受信しながら混信妨害を与えて周波数を目盛り、更に高調波を使いながらと、アマチュア精神を発揮して作ったものでした。しかし製作して40年以上も経つと、落っことしてコイルのボビンが割れたりと各所に劣化が目立つため、1号機はADQ博物館(?)に収め、2号機を製作しようと思います。
(左)1970年に製作した1号機 (右)42年ぶりに作り直した2号機
◆ところでディップメータとは(2012/08/11)
コイルとコンデンサを組み合わせて自励発振回路を作り、測定しようとする共振回路に近づけてダイヤルを回すと、発振エネルギーが吸い取られて弱まる箇所があります。そのときの出力をメータで見ているとピクッと下がる(ディップする)ため、その周波数をダイヤルで読めば共振回路の周波数が分かります。この原理でアンテナの共振周波数を測定することも出来ます。また単に発振器として受信機の調整に使ったり、吸収型周波数形として発振周波数の測定に使ったりとその応用範囲は広いものです。扱う周波数の範囲は広く、中波〜超短波までを数個のコイルをプラグイン式に交換してカバーします。
◆回路について(2012/08/13)
コルピッツ発振回路を使った基本的な回路です。回路としては簡単なのですが、実装時の注意点としては高周波が通る部分は配線を出来るだけ短くすることがポイントです。なお回路とケースとの間で共振回路が出来てしまうと、高い周波数ではダイヤルまわすだけでディップ点があちこちに現れるという問題があり、これだけは作ってみないとわかリません。
回路の実験風景
◆ダイオードによる振幅制限の効果(2012/08/14)
2SK439のゲートには振幅制限のためショットキーバリヤダイオードD1を入れており、その効果を確認しました。発振周波数を変化させながらTP2の電圧を記録した結果が下のグラフです。ダイオードを入れることで、ある程度振幅を抑える効果はありますが、かといって出力がフラットになるわけではありませんでした。
◆RFC直列3個の効果は(2012/08/15)
1つのコイルで広い周波数をカバーしようとすると、上のグラフのように出力は一定ではありません。まして1つの発振回路で400kHz〜150MHzまで動作させるのは中々大変です。RFCは高周波に対して抵抗として働き、その値は「2πfL」という式で表現されます。ここでは値の違うRFCを3個直列につなぎ、それぞれにQダンプ用の10KΩを接続しています。回路実験中にこの3連RFC+抵抗を外し、1mHのRFC1個に交換してみました。HF帯は問題なく動作するものの、VHF帯になると高調波が増え動作が不安定になりました。
製作編
◆ケースの製作(2012/08/15)
自作のケースを作るときは、ダイヤルなど外部の使い勝手と、内部の部品の納まりと、購入したアルミ板に無駄が出ないような寸法を考えて決めています。今回はエアーバリコンを収めることから幅82×高さ150×奥行68mmとなり、真空管式のディップメータかと思えるようなサイズになりました。ポリバリを使えばもっと小型化が可能でしょう。
1mmのアルミ板で作ったケース
◆バリコンについて(2012/08/25)
機械的にがっちりしていることもあり、数十年前に購入したAM2連+FM3連のエアーバリコンを使いました。AM部はおそらく300PF程度のものと思います。エアバリは購入が難しいと思いますが、入手できない場合はポリバリや1SV149などのバリキャップを使用することは出来るでしょう。
◆ケースに部品を収める(2012/08/18)
発振部は5Pの平ラグ板に組みました。ケースが大きいので内部の配線はゆったりしています。
バリコンのネジ穴を利用して5Pラグ板に組んだ発振部を取り付けました。
◆コイルをどのように作るか(2012/08/12)
ボビンは東急ハンズで買った外径φ11×内径φ10のグラスファイバのパイプを70mmに切って使用することにしました。高周波的に良好で、肉厚が薄く、強度がありそうと言うのが選択理由です。入手しにくい場合はホームセンターで売っているアクリルパイプや塩ビパイプが使えますが、外径が少し大きくなるので巻き数の調整が必要です。コネクタはRCAプラグを使用し、外径をヤスリで若干削って合わせ、接着剤を塗りボビンを被せます。なお実質的にボビンに巻いたのはL3とL4であり、あとはマイクロインダクタを直接つないだり、小径のコイルを巻いてその上にパイプを被せています。
◆コイルのインダクタンスを大雑把に探り、巻き数を決める(2012/08/25)
コイルのインダクタンスや巻き数は計算で求められますが、手持ちのマイクロインダクタを動員して大雑把に周波数をつかむ方が実用的でしょう。これで必要なインダクタンスを決めてから空芯コイル式で巻き数を決めます。
単層空心コイルのインダクタンス=0.03948*K*R^2*N^2/L (μH)
N=コイルの巻き数、R=コイルの半径(cm)、L=コイルの全長(cm),Kは 2R/L で決まる定数であり、抜粋ですが下表のようになります。
2R/L |
K |
0.3 |
0.88 |
0.4 |
0.85 |
0.5 |
0.82 |
1.0 |
0.69 |
1.5 |
0.60 |
2.0 |
0.54 |
◆周波数を目盛る(2012/09/01)
周波数を目盛るには周波数カウンタを使うのが一番簡単ですが、最近のトランシーバーにはゼネカバ受信機能がついていますので、それを使うのも1つの方法です。目盛りの外周に2度単位の印をつけ、測定した周波数が何度の角度になるかを記録し、CADを使って目盛りを作り、インクジェットプリンタでフォトペーパーに印刷するときれいに作れます。周波数目盛りをはさみやカッターを使って切り出し、その上から3mmのアクリル板で押さえ、ネジでケースに取り付けました。
(左)周波数目盛りをフォトペーパーに印刷 (右)ゼネカバ受信機で周波数を計測
目盛りをアクリル板で押さえ、ネジでケースに固定する。
◆指針の製作(2012/09/08)
画像のように2mmのアクリル板をアクリルカッターで切り出し、中央に1本線を罫書き、その溝に赤色の水性エナメル塗料を針の先に付けて流し込み、あふれた塗料は素早くティッシュペーパーでふき取りました。そのアクリル板を接着剤でツマミに取り付け出来上がりです。
◆内部共振について(2012/09/15)
「内部共振」という表現が適切かどうか判りませんが、測定対象のコイルを近づけていないのにダイヤルを回すと勝手にディップしてしまう現象が起きました。おそらくケース内部のどこかで共振回路が形成され、それにディップメータが反応したものと思われます。周波数は19MHz、100MHz、120MHzの3箇所にありました。発振回路周辺に金属片を近づけてディップ点が変わらないか調べてみましたが、何が原因で共振しているのかは判りませんでした。
ディップメータの使い方
ディップメータには様々な使い方があり、ここではその代表的な例を紹介します。
1.コイルの共振周波数を測定する(2012/09/15)
2.発信機の周波数を測定する(2012/09/15)
3.テストオシレータとして受信機の調整に使用する(2012/09/22)
DMの周波数安定度がよくないので、AMやFMのように帯域の広い受信機の調整には適しますが、SSBやCWのような帯域の狭いモードには向きません。
4.アンテナの共振周波数を測定する(2012/09/22)
試しに12mのビニール線があったので、巻きつけて測定してみたところ12.5MHzでディップしました。 波長=300/12.5=24m、その1/2波長が12mです。
5.水晶発振器として使う(2012/09/22)
SSBやCW受信機の調整にテストオシレータとして使うには周波数安定度が悪いと書きましたが、プラグインコイルの代わりに水晶をつなげば安定した発振周波数を得ることが出来ます。また水晶自体がちゃんと発振するかのチェックにも使えます。
6.VXOに使うコイルの巻き数を決める(2012/09/22)
VXOに使うコイルの巻き数は製作記事を参考にしたり、あるいは経験的に決めることが多いですが、下記の方法でも確認できます。
7.Lの値を測定する(2012/09/29)
値のわかっているコンデンサに測定したいコイルを接続し、ディップメータで共振周波数を測定してから、下の式に当てはめL(インダクタンス)を計算します。
L=1/(2πf)^2/C
(計算例) 空芯コイルに47Pのコンデンサを接続し、29MHzでディップした場合 1/(2*3.14*29)^2/47=0.64μH となります。
8.Cの値を測定する(2012/09/29)
コンデンサの値も既知のインダクタンスを使えば同じように測定できますが、コンデンサの自作はほとんど無いため余り使わないでしょう。ただバリコンの場合、最大容量がケースに書いてあることはほとんど無いため、その目的で使うことは出来るでしょう。
C=1/(2πf)^2/L
(計算例) 100μHのコイルに容量のわからないポリバリコンを接続し、1MHzでディップした場合 1/(2*3.14*1)^2/100=253PF となります。
9.コイルのQを測定する(2012/09/29)
では実際に測定してみましょう。φ1.6のウレタン線を 内径=27mm、巻き数=6、長さ=22mm に巻いたコイルに47PFのコンデンサを接続したものを作り、コイルの両端に高周波電圧計を接続し、DMには周波数カウンタを接続します。上の要領で測定した結果
Q=24/(24.1−23.9)=120 となります。
10.同軸の波長短縮率(速度係数)を測定する(2012/10/06)
50MHzの1/4λアンテナとして1.5mの電線を使うことがあります。L=300/50=6m それの1/4で1.5mとなり、電線の短縮率≒0.98をかけたあたりで共振してくれます。では同軸ではどうなるでしょう。1.5mに切った3D2Vの片側は開放、片側にワンターンコイルを付け、ディップメータで共振周波数を測ってみると32MHzでディップしました。
その結果同軸の波長短縮率は 32/50=0.64 となります。しかしメーカーが発表している3D2Vの波長短縮率は約0.67とあり、測定誤差が出てしまったようです。
同軸を給電線として使う場合は扱う周波数の1/2波長に波長短縮率をかけた長さで切っておくとSWRの調整時に有利です。50MHzの場合は3m×0.67=2.01mとなるため、2.01の整数倍に切って使います。
波長短縮率の値は同軸内部の絶縁体の特性により、5DFBなどFB系の同軸の短縮率は0.8ほどになります。
<完了>