電力増幅部

◆回路の役割と歴史(2005/02/18)
受信部で検波後の低周波出力を増幅し、スピーカを鳴らすための回路です。いまやLM386の独壇場で、外付け部品が少なく、安価で、どこでも買えるという、3拍子揃ったICです。1960年代までは山水の小型トランスを使ったプッシュプル増幅器が定番でしたが、1960年代後半からのシリコントランジスタの台頭と、コンプリメンタリTRによるOTL(Output Trans Less)回路が紹介され、音質向上と小型化が進みました。1970年代はOTLのICとしてμPC20CがAMトランシーバの変調器として使われたり、各種のOTL用ICが市販されましたが、いつの間にか外付け部品の少ないLM386が席巻してしまいました。


◆LM386による回路(2005/02/19)
トランシーバに使う場合のポイントとしては、発振防止策として @電源のデカップリング回路 A出力部のC1 以上の2つは必要です。これを省略してゲインをあげたとき、「ヒー」という音がスピーカから出れば、紛れも無く発振しています。

 

LM386の周波数特性(2022/1/28)

  1. LM386は1ピンと8ピンの間にコンデンサを入れることでゲイン調整ができ、電圧利得はコンデンサなしで26dB(20倍)、10μ+1.2kΩの直列接続で34dB(50倍)、10μで46dB(200倍)となっています。
  2. このコンデンサの値を変えてみたところ、周波数特性に違いが出たのでそのグラフを下に示します。
  3. 男性の声は500Hzを中心に広がるため、10μであれば問題ありませんが、1μでは必要な帯域のゲインが落ちてしまいます。
  4. LM386を使い始めたころは規格どおり10μを使っていましたが、その後は大量購入した関係で2.2μや1μを使うようになりました。全帯域で多少ゲインが落ちる程度だろうと思っていましたが、周波数特性に違いが出るとは知らなかったので、今回の実験結果から10μに戻すべきと気づきました。
  5. 実際に144H7機の1μを10μに交換してみると、低域が強く出るようになりました。

低域ブースト(2022/2/4)
小型のトランシーバーを作るとスピーカーの口径は大きくても5cm、小さいと3cmほどで音質はキンキンした高音に偏ります。
LM386のデータシートを見ると「Bass Boost」という回路が紹介されており、1ピンと5ピンの間に10kΩと0.033μFを直列に入れることで低域を強調出来るというものです。測定してみると中域から高域のゲインが下がって、低域が持ち上がっていることが判りました。実際のトランシーバー(スピーカーの口径=34×23mmの長円)に組み込んでみると、高音が抑えられ柔らかい音になった感じがします。ただトランシーバーという了解度を重視する機器に採用するかどうかは個人の判断であり、むしろオーディオ向きの回路なのかもしれません。

 
(左)Bass Boost回路 (右)低域ブーストの効果(1,8ピン間には10μを入れています)


◆コンプリメンタリトランジスタによる3石OTL回路 (2005/02/19)
LM386一辺倒では面白くないという向きにはお勧めです。昭和44年に購入した「シリコントランジスタ活用事典 CQ出版 時田元昭著」という本に”SEPPコンプリメンタリOTL”という回路があり、試しに作ってみると低域の充実した良い音質で、小さなトランジスタでどうしてこんな良い音が出るのかと感動したものです。当時の製作記事にはOTL回路を採用したものも時々見かけ参考にしていましたが、近年はLM386が全盛でディスクリートで組む回路というものを見かけることがありません。さて、下の回路は30年程前のメモにあったものを手持ちのTRで実験したものですが、出力は50mWでTRの種類や電源電圧によってバイアス電流が違うため、R1の値によって調整します。

周波数特性(2022/2/11)
3石OTLアンプの周波数特性を調べてみました。50mWを超えると歪が増えますが、室内で交信を聞くレベルであれば50mWで十分です。またLM386に比べると高域の伸びは劣りますが、無線機に必要とされる300Hz〜3000Hzでは問題ありません。しかしディスクリートで組んだアンプと比較すると、12Vで700mW出るLM386は良く出来たICだなと思います。

<完了>


参考文献

  1. やさしい電子工作教室 高田継男、中山昇 共著 CQ出版社