永遠の課題VXO                 ホームに戻る

◆VXOとの出逢い(1998/9)
1960年代の終わりごろ6mAMの真空管リグでQSOしていたとき、トリオのTX88Aを使っていた人が「水晶ソケットに水晶+並4コイル+350PFのバリコンを直列につなぐと、VFOみたいに周波数を変えられるよ」と教えてくれました。当時VFOといえばバリコンとコイルは鉄のケースに入ったガッチリしたものというのが常識で、QRHの少ないVFOを作るのはなかなか大変なことでした。それが水晶にLとCをつなぐだけでVFOの代わりになるというのは大変な情報で早速実験したものです。誰が考えたのでしょう動かないものをくすぐって動かすという実にアマチュア的な発想が好きで、以来このVXOというものにのめり込んでしまったのです。6mの真空管式AM送信機に応用したのが最初で、HC6/Uの3倍オーバートーンの水晶で500kHzは可変できました。水晶1個で運用していた私にとっては衝撃的な実体験だったのです。その後AMからSSBへとモードが変わり、AMではQRHをさほど気にしなくて良かったものがSSBになるとそうは行きません、VXOとはいえ気を配ってやらないと、なかなか周波数は安定してくれないのです。VXOについては各種の記事があり私も随分参考にさせていただきました。ここで紹介するのは決してユニークなものではありません。しかし安定したVXOはどうやって作ればいいのかをこの際一から実験してやろうとこのページを作りました。


◆VXOの回路
下の回路図は代表的なVXOの回路です。水晶と直列にコイルとバリコンをつなぐことで発振周波数を下側に変化させることが出来ます。

  1. VXOコイルLには異常発振防止のため33kΩを並列につないでいます。
  2. 2SC1906による発振部ではコレクタ電流を0.5mAほどに設定して発熱による周波数変動を抑え、電源投入後2分程度で周波数は安定します。
  3. C1とC2は温度補償のセラミックコンデンサ(紫色着色 -750ppm/℃)を使い、温度変化による周波数変動を少なくしています。
  4. 2SK241によるバッファ部で発振段への負荷を減らしています。またこの部分を逓倍回路として使うことも出来ます。
  5. 電源は3端子レギュレータで安定化することは基本中の基本で、78L05の入出力には104(0.1μF)と47μを接続して電源回路での異常発振を防止します。

◆可変周波数範囲は
水晶の個体差があり一概には言えませんが、基本発振周波数の0.1〜0.2%電波の質を考えた時に許容できる範囲と思います。VXO
からの電波を直接受信したとき、ピーというきれいな音なら良いですが、可変範囲を広くとるとプルプルといった細かな振動を含み、音も少しかすれてきます。可変範囲は0.5%以内と書いてある文献もあり、できるだけ広く取りたい気持ちは判りますが、QRHという観点からは問題無くても電波の品質という観点からは無理があるように思います。VXOコイルのインダクタンスを増やし、周波数を少しづつ下げながらワッチし「ここまでは大丈夫」、「そろそろ危ないな」と判断してみてはどうでしょう。

バッファとの結合コンデンサの値
実際例ですが送信時と受信時でVXOの発振周波数が変わることがありました。回路図の発振部の後にFETのバッファアンプを付け、結合コンデンサC3を30Pにしていたところ、送/受による負荷の変動が発振周波数に影響を与えました。C3の値を5Pにすることで問題は解決できました。


コイル

◆コイルの温度特性
コイルは正の温度係数を持ちます。温度が上がればインダクタンスが増える=周波数が下がるということです。

◆コイルのインダクタンス
発振周波数によりますが数MHz〜10数MHzがVXOとして良く使われる周波数です。これにマッチするインダクタンスとしては数μH〜数10μHになります。

◆コイルの巻き数
VXOに使うコイルは一体何を使えばいいのか? 製作記事を読むとFCZコイルの1R9とか固定インダクタが良く使われています。だいたい10μH前後のインダクタンスになります。コイルを自作するには10Kや7K型のボビンが便利です。巻き込む線は0.05か0.1mmのウレタン線を使いますが、これは秋葉原のオヤイデ電気で購入できます。巻き数は水晶が13MHz台では40回、17MHzで30回程になります。水晶とコイルを並列に接続し、ディップメータで測定した時、ほぼ水晶の表示周波数(オーバートーンの場合は原発振周波数)でディップすれば良いでしょう。

◆コア入りボビンとコアなしボビン
実測したところコア入りに比べコアなしの方がQRHは2/3ほどに低減できました。ただしコアなしでは最適の巻数にいたるまで何度も巻き直しをすることが必要です。

タイトボビンについて
随分昔のCQ誌にタイトボビンに銅線を巻く方法が書いてありました。「タイトボビンをガスコンロで真っ赤に焼き、そこに銅線を引っ張りながら巻く」というものです。温度が下がった時タイトボビンの熱収縮率より銅線の方が大きいため、テンションがかかった状態で緩み無く銅線が巻けるというものでした。ところが0.2mmほどのウレタン線を直径8mmほどのタイトボビンに手巻きしても、強いテンションをかけて緩み無く巻くことは困難です。タイトボビンに巻けば理想的なVXOコイルが作れるような記事もありますが、それは太いボビンに太い線を巻いた真空管時代の考えであり、細いボビンに細い線を巻く半導体の時代には合わないように思います。

◆コイルの作り方
ここではサトー電気の通販で購入した7K型のボビンを使って14MHz台に使うVXOコイルを作ります。ウレタン線はオヤイデ電気で購入した0.05mmのものを使います。

    
     使用部品                末端処理             コイルを巻く         

    
   高周波ワニスを塗る          ケースに入れる             完成

  1. ウレタン線をボビンのピンに数回巻き付け半田付けします。
  2. ウレタン線をボビンの溝に20回づつ2溝(合計40回)巻き、巻き終えた末端をピンに数回巻きつけ半田付けします。
  3. 高周波ワニスを爪楊枝につけ、ボビンの溝に垂らし、ウレタン線全体を覆うようにします。
  4. 30分程放置した後キャップコアを被せ、ケースにボビンを押し込みます。この時ピンセットを使うと便利。
  5. ケースにはコイルの巻き数をマジックインキで書いておくと後からチェックするときに便利です。

水晶

特注水晶の購入先
CQ誌にのっているのは川崎電波と
アルト電子の2社です。以前は大松と三田でしたがいずれもCQ誌からは姿を消しています。14.7MHzに限って言えば川崎は@1700+消費税で送料不要。アルトは@1200+消費税+送料480円で、1個注文の場合は大差ありません。しかしアルトの場合、複数個注文しても送料は480円一定ですから、その分少し安くなります。また同じ仕様のものをまとめて注文すると割引があります(5個で5%)。いずれも注文後3週間位で届くようです。川崎はCQ誌の広告欄に価格が書いてありますが、アルトは書いてありません。電話で身元(住所、名前、電話番号、コール)を明らかにしてこちらの意思を伝え、その後お金が届いてから製作を始めるとのこと。FAXやメールでは情報が一方的であり購買者の意図が伝わらない為、電話をすることが必須とか。少し面倒な気もしますが、色々とトラブルがあったためこのような手段をとっているのでしょう。受付が始まる9時過ぎに電話をかけるとヒット率が高いようです。昼間は数回かけましたがいつもお話中でした。

水晶のケースはアースする
VXO回路を動作させ手を水晶のケースに近づけるとボディエフェクトでQRHを起こしますが、そんな時は水晶のケースにリード線の切れ端を半田付けしてアースに落とせばQRHを防ぐことが出来ます。ただし内部の水晶とケースとの間でコンデンサが形成されるため、可変周波数の上限が若干下がります。

 水晶のケースにリード線を半田付けしアースする


バリコン

◆バリコンの種類(エアバリ、ポリバリ、バリキャップ) (11/02/24)

  1. エアバリコンの中で手に入りやすいのはタイトバリコンです。容量直線型ですが周波数直線にはならず、目盛りを打つと下側が広く上側はつまった感じになります。
  2. FM用のエアバリコンはこまめに探すと時々見つかります。周波数直線に近いものもあるので見つけたら買っておきましょう。(大阪・日本橋のデジットで500円)
  3. ポリバリコンはまだ手に入りやすいでしょう。FM専用やAMとFMが多連になったものもありますが、FM部を使います。容量は20P前後です。
  4. バリキャップはバリコンに替わるものとして電圧で容量を変化させることが出来ます。電圧−周波数特性は様々ですが富士通のFC54Mは比較的直線に近いです。

   
    タイトバリコン          FM用エアーバリコン         ポリバリコン       バリキャップ

◆エアバリコンの温度特性
エアバリコンは正の温度特性を持ちます。温度が上がればキャパシタンスが増えるという意味です。すなわち温度が上がれば周波数が下がるということです。(SSBハンドブックより引用)

◆ポリバリコンの温度特性
ポリバリは負の温度係数を持つようです。これは私の実験結果から想像したもので、文献からの引用ではありません。ポリバリは極板の間にポリエチレンのシート(
比誘電率は約2.1)を挟んだもので、どうもこのポリエチレンが負の温度係数を持つようです。したがって温度が上がればキャパシタンスが下がり、周波数が上がるということです。VXO回路を組んだ場合、コイルが正でポリバリが負なら丁度打ち消しあいそうですが、ポリバリの変化の方が大きく、結果的に周波数は上昇傾向にあります。

バリキャップ
バリコンが手に入りにくくなっており、代わりにバリキャップを使うことがあります。バリキャップはバリコンよりも温度特性が悪く周囲温度の変化に影響されやすいですが、発振段のコイル+バリキャップ+水晶+トランジスタをケースで覆ってしまえば実用的に使うことができます。また電圧可変はボリュームよりも10回転ヘリポットを使うことで減速機を使わなくてもスムーズな同調を取ることが出来ます。

  
        VXOの発振段            発振段をカバーで覆う         10回転ヘリポット


発振素子

◆発振素子
トランジスタかFETのどちらかを選びます。トランジスタは
ftの高い石が発振しやすいといわれており、私は2SC1906(ft=1000MHz)をよく使います。

◆周囲温度は一定なのにどうしてQRHするのか

QRHの原因には

  1. 電圧の変動
  2. 振動
  3. 周囲温度の変化
  4. 負荷の変動

などが考えられます。実験してみるとケースの中に入れた1石だけのVXO発振回路でもQRHが起きました。室内の実験で振動はなく、電圧は安定化された外部電源で、負荷は周波数カウンタのみで一定、室温は0.1度の精度で一定、電圧5V・電流は3mAで一定です。回路の中で発熱しそうなものはトランジスタと抵抗ですが、たかだか3mAで発熱するのでしょうか。発熱といえば「手で触って明らかに熱くなった」というのがそれまでの感覚でしたから、なかなか信じられなかったのですが、電源投入後の初期的な周波数変動はトランジスタにありと結論付けました。

◆発振素子の発熱を押さえてみると(コレクタ電流と周波数ドリフトの関係)
発振素子の2SC1906に流すコレクタ電流を0.5mAと3mAで変えてみます。回路的にはC−B間の抵抗を1MΩと100KΩで交換しました。周波数は14MHz台で可変範囲は20KHz。10分間の測定ですが3mAの時16Hz、0.5mAの時12Hzとなりました。約60%ですね。

発振素子はTRかFETか
QRHを押さえるため微少電流にて発振させようとすると、コレクタ(ドレイン)に流す電流を制御しやすいという意味からはTRの方が使いやすいですね。FETには電流を一定に流そうという特性がありますから。


電源

電圧の安定化
特に発振部は電圧の安定化が必要です。3端子レギュレータは50円位で買えますから大いに使いましょう。ただし滅多にはありませんが不良品もありますので、本当に安定して電圧が出ているかは一度確認しましょう。.また入出力にはそれぞれ0.1uF程度のバイパスコンデンサをつけてアースに落とし異常動作を押さえます。また入力電圧と出力電圧の差は1.5V以上必要で、5Vのレギュレータを使うなら、6.5V以上の入力電圧を要します。


QRH測定

◆周波数カウンタの安定化(04/12/03)
私が使っている周波数カウンタの八重洲YC−500Jは、測定前に2時間以上通電し基準発振器を安定化しておきます。以前はいきなり電源を入れて測定していましたが、後で確認してみると14MHz台を測定している時に、カウンタ自身が通電後90分で60Hz程変動していることがわかったためです。同じシリーズの恒温槽型や温度補償型はもっと精度が良いのでしょうが、私が買った標準型の精度はここまでのようで、その分測定前にしっかり通電しておき、測定器を暖めておいてから計測を開始するようにしました。

◆測定方法

  1. VXO部分はケースに入れ、ボディエフェクトとか風の影響を少なくします。
  2. 測定は室温変化の少ない日が好ましいです。例えば曇りの日とか、日中よりも夜とか、また冷房や暖房はやめましょう。
  3. コイルや水晶、コンデンサ、バリコンなど発振部を半田付けしたり、コアを回した場合は落ち着くまでに時間がかかります。出来れば1日置きたいものです。私は半田付けや測定器への接続など試験準備を終えた状態で1日放置し、熱的・機械的に安定してから測定に入ります。1つデータを取ってから条件を変えてセットし、明くる日会社から帰ってから次の測定に入るという訳で、随分気の長い測定になりますが、結局その方がデータの信頼性が高くなります。室温はデジタルの温度計を使い、VXOケース内の温度も測定できれば更に良いでしょう。
  4. 周波数カウンタの値がそのままパソコンに取り込めれば便利ですが、そうも行きませんので、時計(ストップウオッチ)とにらめっこしながらカウンタの値をレポート用紙など書き込みます。測定開始から10分位は1分おきに、あとは5分間隔で記録し30分程計測します。
  5. データはエクセルに入力すればグラフ化できますし、方眼紙にプロットするのもよいでしょう。測定条件を出来るだけ書き込み、記録として残すと後々の参考になります。

QRHはどの程度まで我慢できる
これは私独自の基準ですが10分で100Hz以内に押さえる事を目標にしています。10分というのは1回のQSOの平均時間です。100Hzはチューニングをし直さなくても良いと思うQRHの範囲です。


周波数安定化の方法

@機械的にがっちり作る、A電源電圧を安定化する は基本ですがそれ以外には

◆温度補償をする(11/02/24)
VFOの場合はバリコンと並列に温度補償用のコンデンサを接続しますが、VXOでは同じことをすると周波数変化幅を大きく取れないので、上の回路図におけるC1とC2に温度補償コンデンサ(-750ppm/℃)を使いコイルが持つ正の温度係数を補正します。

◆発振部をケースに入れる(11/02/24)
リグの電源を入れれば内部は発熱し、まして送信すればファイナルからの発熱は馬鹿になりません。そして冬場の暖房、夏場の冷房など温度変化の要因はたくさんあります。ただアマチュア無線は標準電波ではないため、1回のQSO中に再チューニングする必要が無い程度の安定度でよいと考えます。そのため周囲温度の変化を緩やかに受けるよう、発振部をケースで覆うことは効果的な方法といえます。

  (左)ケースをはずしたところ (右)ケースを被せたところ


トラブル対策

◆VXOが発振しない時には
発振周波数の関係があるので一概には言えませんが、回路図中のC1が大きい場合(例えば100P)発振しない事があります。そんな時は30P程度に代えてやると発振する事があります。

◆異常発振の見分けかた
VXOが異常発振すると受信機で聞けばVXOのVCを回すとそこら中でプチプチと信号が入感します。RFプローブをOUT部に当て、バリコンを回すと針が大きく上下することからも判断出来ます。周波数カウンタを当てても周波数がめまぐるしく変化します。 

◆異常発振対策
雑誌の記事で発表されるVXOの回路には、ほとんどこのR1が入っているのであえて言う程の事は無いのですが、10k〜47k位の範囲でLと並列に入れると効果があります。

<完了>