144MHz SSB縦型トランシーバー(144S5)               ホームへ戻る


144MHz SSBの様子とリグの自作について

3エリヤにおける144MHzSSBについて(2017/4/7)

  1. アマチュア無線を運用する局数は全般に減少傾向にありますが、近畿の各府県には2mSSB愛好会があり、1970〜1980年代の賑わいは無いものの比較的アクティブな周波数・モードといえます。
  2. 平日ならば20〜22時、また休日ならば移動運用局が出るため昼間でも交信のチャンスがあります。
  3. 定期的にコンテストが開かれており、そんなときは急に賑やかになります。
  4. (2022/9/9追記)3エリアでは月〜土8:30頃から2時間ほど、144.190MHzにて「朝のおはようさん」というスケジュールがあり、声掛けだけですぐに引っ込んでも良いので、毎回150局程が参加しています。
  5. (2022/7/3追記)13時前に144.145MHzで台湾のBX2AJF局がQSBを伴いながらピーク59で入感しました。直線距離で1700kmです。

144MHzの自作について(2017/4/7)

  1. 144MHzトランシーバの自作はHFや50MHzに比較すると倍以上難しい印象ですが、何度も製作&失敗を繰り返すことで次第にコツをつかめるようになるため、うまく行かないからといって諦めることなく粘り強く続けることが必要です。
  2. 製作記事を参考にすればリグは出来上がりますが、ポイントはコイルを間違った周波数に同調させないことです。
  3. 例えばVXO132MHz、中間周波数12MHzであれば 132+12=144 で144MHzを作りますが、コイルの同調を間違えると 132-12=120 で120MHzに同調させてしまうことがあります。
  4. この場合アンテナをつないでもSWRが極端に悪く、その時点で同調周波数が間違っていることに気づくわけです。
  5. またプリントパターン設計や配線に関し、高周波の流れる箇所は「太く短く」、そして入出力が接近しないよう気をつけてください。

◆縦型トランシーバー作りのきっかけ(2017/4/7)
トランシーバーの形状は100%近くが横長型で、ダイヤルを操作することから机に置いて安定感のある形状が好まれますが、場所をとるというデメリットがあります。またリグを積み重ねると操作はしづらくなるものです。30年ほど前にICOMのIC502やIC202という縦型のトランシーバーがあり、本棚にも置けるというユニークな形状でした。これをヒントに狭いスペースにも入る「すきま家具」のような縦型のトランシーバーを考えることにしました。

IC502と電源+リニヤアンプ


リグ作りの方針と具体策

◆どんなリグを作りたいか(2017/4/7)

  1. シャックの狭いスペースにも置ける形状にしたい。
  2. 判りやすい回路で実用的な性能であること。
  3. ホームセンターや通販などを利用し一般的な部品で作れるようにしたい。
  4. 改造による性能アップが楽しめるよう、小規模な回路変更や部品交換をしやすくしたい。

◆具体的にどうするか(2017/4/7)

  1. ケースは場所のとらない縦型構造としアルミ板で自作する。
  2. トランシーバとしての基本機能に絞り込み、ツマミやコネクタは最小限とし、スピーカーは正面パネルに出す。
  3. 入手容易な部品を採用し、水晶はサトー電気の通販で購入する。
  4. 配線方式はカットアンドトライのしやすい平ラグ板を採用し、20Pのラグ板4枚に回路を収納する。ただし終段のみプリント基板を使用する。

◆仕様(2017/4/7)

  1. 周波数   : 144.130〜144.280MHz
  2. 送信出力  : 3W
  3. 終  段   : 2SC1971
  4. 受信部    : 高1中2シングルスーパー
  5. 中間周波数 : 12.288MHz
  6. サイズ    : 幅60×高120×奥行230mm(突起部を除く)
  7. 電源電圧  : 12V

回路について

◆受信部(2017/4/7)

  1. 高周波増幅は2SK439を使いゲートにはAGCをかけています。混合部2SK439のソースにはVXOからの信号を注入します。
  2. 144MHzの信号が通る箇所はトロイダルコアT25−12を使用して損失の少ない増幅を行います。
  3. 送信部と共用している水晶フィルタで帯域を絞り、その後2SK241を2個使って中間周波増幅を行います。2SK241にはAGCをかけてゲインを制御します。
  4. 検波部は1SS108を4本使い、局発からの信号を加え音声信号を取り出します。
  5. 音声信号は微弱なため2SC1815で低周波増幅を行い、LM386によりスピーカを鳴らします。なおLM386の2ピンには送信時に100Kを通して電圧をかけ動作を止めます。
  6. 低周波増幅後にカットオフ周波数1400Hzのローパスフィルタを通し高域をカットしています。
  7. 受信から送信に切り替わるときのクリック音を止めるため、2SC1815によるスイッチング回路を設けています。
  8. 低周波増幅の後にAGC増幅を行ってマイナスのAGC電圧を作り、これでSメータも振らせます。
  9. スピーカーは長円形で8Ω2Wのものを正面パネルに取り付け、1.5mm厚のアルミ板で作ったスピーカーグリルを取り付け、正面パネルのアクセントとしています。

 

 スピーカーグリル

◆送信部(2017/4/7)

  1. マイクアンプ部ではコンデンサマイクからの信号を2SC1815で増幅しバラモジ部に加えます。
  2. NE612の6,7ピンで作った局発信号と、1ピンに加えた音声信号を合成してDBMの信号を作り、4ピンから取り出して水晶フィルタに加えます。
  3. 受信部と共用している水晶フィルタによりUSBの信号のみ通します。
  4. 周波数変換部ではNE612ANの1ピンにクリスタルフィルタからの信号を加え、6ピンにはVXOからの132MHzの信号を加えて周波数変換を行い144MHzの信号を作り、2段のバンドパスフィルタを通し144MHz以外の信号を減衰させます。
  5. 2SK241にて増幅してから2段のBPFを通し、2SC1906、2SC2538でドライブ増幅し、終段へ信号を送ります。
  6. 終段は2SC1971を用い、この部分のみプリント基板を使い後部パネルに取り付けます。

  

◆共通部(2017/4/7)

  1. VXO部では44MHz(3倍オーバートーン)の水晶を基本波で発振させますが、ボディエフェクトを防ぐため水晶のケースはアースしておいて下さい。2SK241と2SC1906で3逓倍を2度行い132MHzを作ります。また発振部には3端子レギュレータで安定化した7Vの電圧をかけています。
  2. 局発部はNE612ANを使い、水晶に6.8μHを直列につないでVXOとし、トリマで12.285MHzに合わせキャリヤポイントとします。
  3. クリスタルフィルタは12.288MHzのHC49US型水晶を6個使ったラダー型で帯域は約2.4kHzです。
  4. スタンバイ回路はTRスイッチで送信時の消費電流は約15mA、受信時の電圧降下は0.4Vほどです。2SC2120と2SA950はコンプリ用のペアトランジスタで最大電流は800mAとなっています。
  5. アンテナ切り替えは秋月で購入したY14H−1C−12DSという12Vのリレーを使い、コイル端子にはダイオードの10D1をパラに接続しサージ電圧をカットします。
  6. 空心コイル2個とトリマコンデンサ使った144MHzのバンドパスフィルタで不要なスプリアスをカットしています。

 


ケースの設計上配慮したこと(2017/4/7)

  1. 幅60×高さ120×奥行き225mmの縦型構造とし、シャックの狭いスペースにも置けるようにしました。
  2. ケースは11の部材からなっており、設計変更や加工ミスがあっても作り直しを容易にしました。
  3. ケース中央にパネルを置き、平ラグ板を表裏両面から取り付けることでスペースを有効に使えるようにしました。
  4. カバーは左右よりL型のものを被せる方式とし、コの字型カバーほど内側寸法に気を使うことはありません。
  5. 出力のBNCコネクタ、電源コネクタはケーブルをつないでも安定するよう後部パネルの下側に取り付けました。
  6. ケース下部にあるゴム足の取り付け幅を出来るだけ広く取って安定するようにしました。

 左右のカバーを外したところ


動作安定化のために気をつけたこと

同じ周波数を何段も増幅する送信部には異常動作を誘発する箇所はいくつもありますが、それらを1つ1つ対策することで何事も無いかのように電波は飛んで行くものです。回路はシンプルに越したことはありませんが、シンプルすぎると暴走することもあるため、所々に緩衝材や不要な信号をブロックする回路が必要になります。

◆送信部(2017/4/7)

  1. 平ラグ板上に4段のストレートアンプを組むと異常動作する可能性があるため、終段は別基板として後部パネルに取り付けた。
  2. 周波数変換後の増幅段2SK241の負荷コイルはタップダウンしてドレインに接続した。
  3. ドライブ段と終段のベースには安定化抵抗として4.7〜10Ωをいれた。
  4. 高周波の回り込み防止用として、マイクアンプ部の電源回路に1KΩ+103×2のデカップリング回路を入れた。電解コンデンサは22μ以上が必要。
  5. 終段のベースバイアス部には電解コンデンサを入れ、異常動作を防止する。

◆共通部(2017/4/7)

  1. 3端子レギュレータの入出力には104のコンデンサを入れるとともに、出力側には異常発振防止用の電解コンデンサを入れた。
  2. VXOの異常発振防止のため、コイルと並列に33KΩを入れた。
  3. VXO用水晶のケースはアースしてボディエフェクトを防ぐ。
  4. QRHを少なくするためVXO発振部2SC1906のコレクタ電流は0.5mAとし、電源ON後2〜3分で実用的な安定度に達する。
  5. ポリバリの取り付けはゴム板を使って減速機との芯ズレを吸収し、ポリバリへの機械的な負担を少なくした。
  6. 電源回路には大きめの電解コンデンサを入れて回路のインピーダンスを下げる。

◆配線(2017/4/7)

  1. 高周波の流れるインピーダンスの高い部分は最短距離で配線する。
  2. 高周波が流れ、インピーダンスが低く、遠くまで引き回す配線は同軸(0.8DQEV)を使った。
  3. 低周波が流れ、遠くまで引き回す配線は、高周波が乗ることを防ぐためシールド線を使用した。
  4. 直流が流れる配線でも終段に近い箇所は高周波が電源回路に流れ込むことがあるためシールド線を使う。
  5. 各部品や特にバイパスコンデンサはリード線を短く配線する。リード線が長いとその部分のインダクタンスや浮遊容量がローパスフィルタとして働き、周波数特性が低下するからです。
  6. 平ラグ板のアース部は卵ラグで太く短くシャーシに落とす。

設計・製作する上での工夫と注意した点

トロイダルコアの採用(2017/4/7)
サトー電気で販売している7Kコイルについて性能評価のため国産と中国製を空芯コイルと比較してみたことがあります。その結果50MHzまでは遜色無く使えますが、144MHzになると伝達効率が70%ほどに低下することが判りました。しかしFCZコイルの144MHz用は空芯コイルと同等の性能であり、おそらくコアがフェライトではなくカーボニル鉄を使っているからではないかと推察しました。私が作る144MHzのトランシーバーはサトー電気の7Kボビンを多用しており、損失分は増幅度でカバーするしかないかと割り切っていたものの、頭の隅には引っかかっている問題でした。アミドンやマイクロメタルのトロイダルコアはカーボニル鉄を使い損失が少ないとPRしており、ここで採用してみます。

 

バラモジと周波数変換はNE612を使用(2017/4/7)
NE612(SA612等)は値段も様々で20年ほど前は共立電子で500円しており、気楽に使えるものではありませんでした。現在でも1Kほどの値段をつけている店もありますが、私はイーエレにて320円で購入しました。外付け部品が少ないのでバラモジ部は簡素化できました。周波数変換部は空中配線を多用して配線を短くし、また使わない2、7ピンはパスコンでグランドに落としてバランスが崩れないようにします。

 NE612AN

ダイヤルの減速機構(2017/4/7)
6:1のボール減速機を使用しました。減速機とバリコンをつなぐときは芯ズレや傾きを吸収するためタイトカップリングなどを使うのが基本ですが、軸方向のスペースが取れないことがあります。そんなときはポリバリと減速機を直結し、ポリバリをゴム板に取りつけ、その弾力で芯ズレを吸収するようにしています。ゴム板はホームセンターにて100×100×3mmのものが80円程で購入できます。同調用のバリコンをフニャフニャしたゴム板に取り付けて大丈夫かと思えますが、ツマミをゆっくり回せば使用上の問題は感じません。(早く回すとゴムの弾力が追従せず音声に乱れが生じます)

ダイヤルの指針(2017/4/7)
ダイヤルは白色の塩ビ板を丸く切り取りそこに目盛りを入れます。位置を示す指針は2mmのアルミ板に2mmのタップを立て、その周囲をハンドニブラで三角に切り取ってヤスリで整形し、正面パネルの裏からビスで引っ張り締めしています。

Sメータの固定方法(2017/4/7)
正面パネルスペースの関係でSメータは縦振れ式としました。また0.6mmのアルミ板を12mm幅に金切挟で切り、クランク状に曲げメータを固定しました。

 

終段は後部パネルに取り付け(2017/4/7)
送信部周波数変換後に4段ストレート増幅すると回り込みなど異常動作の原因になるため、ラグ板配線は3段増幅で一旦区切って動作確認を行い、終段はプリント基板化して後部パネルに取り付けるようにしました。

  

バンドパスフィルタの取り付け向き(2017/4/7)
バンドパスフィルタに使う空心コイルは互いの影響を避けるため直角になるよう取り付けます。

◆ビニール線の色分け(2017/4/7)
ビニール線は、送信部(青)、受信部(赤)、共通部(黄色)、●アース(黒)、AGC(緑) のように色分けしてチェックしやすくしています。 

高輝度LEDの使用で消費電流を減らす(2017/4/7)
パイロットランプとして高輝度の青/赤LEDを使用し、電流制限用の抵抗として10kΩを使うことで消費電流は1mAになりました。高輝度でない緑/赤LEDでは1KΩを使うと消費電流は10mAなので、こんなところでも省エネが図れます。

低周波増幅の結合コンデンサはギリギリ小さい値のものを使う(2017/4/7)
トランシーバーというものは送信/受信を頻繁に切り替えるため、動作の立ち上がりを素早くすることが必要です。本機のように低周波増幅段でAGC増幅している回路では、AGCの立ち上がりを早くするため結合コンデンサは1μという小さな値のものを使っています。

◆スピーカーグリル(2017/4/7)
四隅に取り付け穴がある長円型のスピーカー(8Ω2W)を使い、正面パネルにはアクセントとして1.5mm厚のアルミ板で作りつや消し黒で塗装したスピーカーグリルを取り付けました。


◆縦型構造について(2017/4/7)

  1. 70mmほどの隙間があれば置くことができ、今までの横型リグには無い新鮮な印象があります。
  2. 同調用のツマミが90mmの高さにきたことで、肘をついてツマミを回すには程よい高さになりました。同じサイズの横型ケースでは40mmになり、台に乗せないとツマミは回しにくいです。
  3. Sメータは同調ツマミの左横に縦振れ式に取り付けました。
  4. 製作上、横型ケースではコの字型カバーの内側寸法精度に気を使いますが、このリグは左右からカバーを被せる方式のため、精度に対しさほど気にする必要がなくなり楽になった。
  5. 4つのゴム足が均等に机に当たらないとグラグラするため、ケースの下側板を止めている4つのネジを調整しゴム足が均等に机にあたるようにしました。

◆部品入手の容易さ(2017/4/7)

  1. 手に入りにくいのは減速機とSメータですが、バーニヤダイヤルとレベルメータで代用は可能です。
  2. その他の部品は通販を利用すれば入手は容易でしょう。
  3. 7Kコイルは全て手巻きですが、FCZコイルに巻き数を合わせていますので代替は可能です。ただしVXOコイルは40回巻いたものが必要になり、VX3で可能かどうかは確かめていません。FCZコイルと数μHのマイクロインダクタを直列につないで使うという手もあるでしょう。

◆平ラグ板の配線(2017/4/7)

  1. 部品交換をする場合プリント基板では両面からの作業が必要ですが、平ラグ板は一方向から作業できるので便利です。
  2. 半田付けが上手に出来ることは絶対条件ですが、部品のリード線を短く切るとか、アースは卵ラグを使い最短距離でシャーシに落とすとか、ポイントを押さえた配線技術が必要です。リード線の長いヒョロヒョロした配線は見栄えとともに所定の性能が出ないなど、高周波としての動作にも影響が出るでしょう。

◆QRHの程度(2017/4/7)

  1. 通電後2,3分で初期変動は収まり、その後の変動は10分で100Hz程であり実用範囲内と思います。QRP機なので内部発熱が少ないのもメリットの1つです。
  2. 暖房/冷房や太陽光の直射などで急激な温度変化があればQRHは大きくなります。室温が安定するまで待ちましょう。

動作の安定度(2017/4/7)

  1. 送信部 : 試作段階で安定化対策を盛り込んできており、今回の製作ではとくに不安定な動作はありませんでした。
  2. 受信部 : 回路図どおり作ればまず問題は無いでしょうが、発振気味であればFETのソース抵抗値を増やしてください。

低周波入力対送信出力(2017/4/7)
マイク端子に低周波発振機をつなぎ200〜3000Hzまで変化させたときの送信出力の変化を下のグラフに示します。

塗装をして完了(2017/6/15)
正面パネルはシルバー、カバーとスピーカーグリルはつや消し黒で塗装しました。


運用実績

自宅のアンテナは8mH 1/4λGP です。

日付

相手局

MY

HIS

当局運用地

相手局運用地

距離(km)

2017/3/19

JO3ALU/3

59

58

兵庫県伊丹市(自宅)

京都府相楽郡和束町

49

2017/7/30

JH5VTF/5

57

57

兵庫県伊丹市(自宅)

高知県安芸郡北川村

185

             
             
             

<完了>