144MHz FMトランシーバの製作(144F2)
◆はじめに(2013/5/6)
1970年頃のCQ誌に144MC FMトランシーバ製作の記事が載りました。これを作れば144のFMで自作機デビューが出来ると思ったものの、いきなりプリント基板を作る自信はありません。まずは平ラグ板に回路を組み始め、受信部はなんとかできたものの送信部がうまく動作せず完成には至りませんでした。その後社会人になってからはデジタル制御のメーカー製ハンディトランシーバーが安く手に入るようになり、FM機は作るよりも買う方が楽との思いから自作の対象にはなりませんでした。しかし、ここ15年ほどの間に144のSSB機を数多く作り、以前よりは勘が働くようになって来たため、40年前のリベンジと言うわけでもありませんがFM機を再試行してみようと思います。
◆どんな構成だったか(2013/5/6)
1973年に手書きした回路図を見ると
学生だった当時、アルバイトで時給150円、1日働いても1200円だったころ、1000円もした終段用の2SC320やペアの水晶を無理して買ったことを思い出します。しかし持っている測定器はテスターとディップメータ、高周波電圧計。まとめ上げる実力不足で送信部の調整で行き詰まり、それより前へは進めませんでした。今になって残された部品を眺めてみると、終段の2SC320は長い足の先に半田が付いており、高価なトランジスタの足を短く切るのをためらっていたのでしょう、高周波回路実装の基本が守られていませんでした。
受信部回路図の一部(1973年)
使用していた部品 (左)終段の2SC320 (中)455kHzセラミックフィルタ (右)電力増幅のWC343T(ウエスティングハウス?製)
◆回路構成(2013/7/6)
受信部の構成にはシングルスーパーとダブルスーパー方式があります。シングルスーパーについては144F1機で試行しましたが、12.96MHzで帯域15kHzのラダー型水晶フィルタの製作は帯域内のフラットな特性を得るのが困難であったため、Wスーパー方式の144F2機を試行することにしました。構成は下のダイヤグラムのように第1中間周波は10.7MHz、第2中間周波は455kHz。VXOは手持ちの関係で15MHzを使うこととし、145.00〜145.70MHzまでカバーしてみようと思いますが、ちょっと広すぎるかなという感じはします。
共通部
◆まずはVXOから(2013/7/13)
原発振14.97MHzを9逓倍して135MHzを作ります。ここまでは十分に実績はありますが、可変範囲を400kHzほどとるため、濁りのないきれいな発振をしてくれるかどうかと、FMとはいえ安定度が気になります。VXOのコイルは10Kボビンに0.1UEWを40回巻いたものを使い、その後3逓倍を2回して135MHzを作りました。FT817をUSBモードにして信号を受信してみると特に濁りもなく、きれいな発振音が聞こえたのでまずは一安心です。安定度については実際に受信しながら評価をしましょう。
受信部
◆フィルタについて(2013/7/13)
10.7MHzと455kHzのセラミックフィルタは市販されておりサトー電気で購入することが出来ますが、とりあえずは手持ちのものを使ってみます。10.7MHzはおそらくFMラジオ用のもので3端子のセラロックのような格好をしています。帯域はおそらく150kHzはあるでしょうが、まずは第1フィルタとして使います。455kHzのセラミックフィルタは30年ほど前に買ったもので、帯域は当時の規格である30kHzと思いますが、長らく眠っていた部品たちをまずは使ってみましょう。
(左)10.7MHz (右)455kHz セラミックフィルタ
◆市販のIFTを巻きなおしてディスクリミネータのトランスを作る(2013/9/14)
フォスターシーレ検波をするにはセンタタップのついたディスクリミネータ用のトランスが必要になります。10Kボビンに0.05UEWを160回巻いてみましたが、ボビンの溝に細い線を間違いなく入れていくのは中々大変でした。次に市販の455kHzIFTで試行してみました。黄色コアのケースを外しコイルを解いて巻き数を調べてみると 1-2間で35t、2-3間で122t、4-5間で5tとなっており線径は0.07mm、またCメータで同調コンデンサの容量を測定すると180PFでした。同調コンデンサは残すことにしてボビンに0.1UEWを80回巻いてセンタタップを取り、更に80回で合計160回巻いたものを作りました。
(左)コイルを解く (中)Cメータで容量を測定
(左)160回巻いたディスクリ用トランス (右)ケースを被せて完成
◆中間周波増幅+リミッタ+検波部(2013/7/27)
455kHzディスクリのトランスが巻けたので中間周波増幅部以降の配線をしました。セラミックフィルタの後、2SC1815を4個カスケード接続して中間周波増幅し、リミッタ回路で振幅制限をします。フォスターシーレー検波で音声を取り出してみると、無信号時はザーというノイズが聞こえ信号が入ると音声が聞こえる、いわゆるFMらしい音になりました。4段カスケード接続の中間周波増幅回路は40年以上前のCQ誌JA1AYO丹羽さんの製作記事から引用したものですが、元はモトローラの回路とのことでした。シンプルで消費電流が少ないと言う点はよろしいのではないでしょうか。
(2013/9/6) ディスクリ用のトランスにセンタタップではない市販の455kHz IFT(黒)を使ってみましたが、復調することは出来ました。デジタルテスタで抵抗値をはかったところ、巻き数比は1:2程度と思われます。
(2013/9/21) 受信部が少し発振気味だったので、4段カスケードを3段に減らすことで安定した動作になりました。
◆スケルチ(2013/8/3)
無信号時に発生するFM特有のザーという雑音を聞こえなくするのがスケルチ(Squelch
= 押しつぶす)です。そして信号が入ったときはスケルチを開いて相手局の声が聞こえるようにします。リミッタ回路コレクタ負荷コイルのコールドエンドからフィルタを通して高域の雑音信号を取り出し、増幅・整流してスケルチを動作させる電圧を作ります。雑音があるときはその電圧でスケルチがON状態になり低周波増幅の動作を一時的に止めてスピーカーからの音が出ないようにします。信号が入ると雑音がなくなるため整流電圧が低くなってスケルチがOFF状態になり、スピーカーから音が出るようになります。課題は音声信号には反応せず高域の雑音成分のみを取り出すフィルタ回路と、スケルチの切れを良くするスイッチング回路をどのように組むかです。最近のIC化された回路は参考にならないため、手持ちの古い資料を眺めながら実験を進めることにします。
◆スケルチのフィルタ(2013/8/10)
スケルチに使うフィルタは、低域の音声信号は抑え高域の雑音成分を取り出すことが目的です。RFワールド誌では音声信号やその歪成分による誤動作を避けるため20kHz〜50kHzを高域の雑音成分としており、そのためにはHPF(ハイパスフィルタ)あるいはBPF(バンドパスフィルタ)を通すことが必要になります。ここでは2種類のフィルタの特性を調べてみました。入力には低周波発振器をつなぎ100Hz〜100kHzの信号を加え、出力には低周波電圧計をつなぎました。
ここではBPFの回路を使うことにしました。
スケルチのBPF部
◆スケルチのスイッチング回路(2013/8/10)
雑音成分を増幅した後にダイオードで整流して電圧を作り、スイッチング回路に加えて低周波増幅段をON/OFFすることでスケルチとして動作させます。実験当初はスイッチング用のトランジスタは1個で低周波信号をON/OFFしていましたが、切れが悪いこととスピーカーからわずかに音が聞こえるという現象がありました。そのためビギトラの回路を参考に1石追加しLM386をON/OFFするようにしたところ切れの良い動作でスピーカーからの音漏れもなくなりました。
◆受信部の調整(2013/8/17)
SSB機では信号源がなくても受信時の雑音を最大にすると言う手はありますが、FMでは最初から雑音が出ているため何か信号源が必要になります。モービル局はQSB大きく調整には向かないため固定局の信号で調整するか、145MHzのFMトランシーバーがあればアンテナ端子にダミーロードを付け最小出力で送信信号を作ります。
受信部(RF-MIX1-IF1-MIX2)
送信部
◆VXOに周波数変調をかける(2013/8/24)
周波数変調の定番回路はベクトル合成位相変調と言うものでした。動かない水晶に変調をかけても周波数偏移が少ししか取れないため、低い周波数で変調をかけ逓倍段数を多くとって必要な周波数偏移を確保していました。ところがVXOが一般的に認知されてくると、これに変調をかけることで必要な周波数偏移が取れるため、回路がずいぶん簡単になりました。周波数変調部は「ビギナーのためのトランシーバの製作入門」から回路を引用しています。2SC1815でマイクの音を増幅した後、バリキャップ代わりの2SC1815に変位を与えることで2SC1906のVXOに対し周波数変調をかけています。
◆周波数変調部の特性(2013/6/8)
FMとは音声の振幅変化を周波数の変化にするものですが、具体的にどうなっているかを調べてみました。周波数変調部は @マイクアンプ部 A変調部 B発振部 で構成されています。
◆周波数変換部、励振増幅部、終段増幅部(2013/8/31)
周波数変換部と励振増幅部はSSBトランシーバーのときと同じ回路を採用しています。終段がC級増幅になった以外はSSB機と同じ配線なので、いつもの流れで進みました。終段は2SC1970を使って出力は1Wとし、20×80mmのアルミ板をH型に曲げて放熱板を作り取り付けました。
送信部
アルミ板を曲げて作った放熱板
◆送信部でのトラブル(2013/9/21)
144F2機を送信状態にすると近くでつけていたFMラジオに広範囲のインターフェアが発生しました。特定の周波数に出る高調波ではないようです。周波数変換のTA7358Pの4ピン(周波数変調部からの入力)に高周波電圧計を当ててみると1Vあり、入力電圧としては高すぎるためT17の出力に1KΩの半固定抵抗をつけ、出力を増減しながら様子をみることにしました。TP3に高周波電圧計を当てると
0.5V以上では入力電圧が高すぎるためTA7358Pが飽和状態になり、スプリアスが発生していたのでしょう。入力電圧としては0.2V前後に設定しておくのが良いと思います。周波数変調部は安定した発振をさせるため2SC1815に9mAという多めのコレクタ電流を流していますが、そのため出力が大きくなりすぎたのが原因でした。
◆外付け周波数カウンタ(2022/8/26)
外付けカウンタで周波数を表示
◆周波数の切り替え(2022/8/26)
144S6機はバリキャップを使った電子同調にしていますが、VR(可変抵抗器)を2個にして2つの周波数を受信できるようにし、スイッチで切り替えるようにしたところ、使い勝手が良くなりました。144MHzFMではメイン周波数が145.00MHzなので、1つはその周波数に設定し、もう1つを可変にすればメインから交信周波数への移動が楽になります。
スイッチで2つの周波数が切り替えられるように改造
<完了>
参考文献