144MHzSSB 0.6Wハンディトランシーバー(144H5) 

はじめに(2019/9/6)
2025年1月にスペアナを購入し、これまで作ってきた自作機を新スプリアス規格に則って測定してみました。出力1W以下のリグについては、スプリアス領域の50μW以下に入っていましたが、1Wを超えるリグについては60dBという数字が重くのしかかり、改造できるスペースがあるものについてはフィルタの追加で何とか対策しました。新スプリアス規格は1Wという境界線で天と地ほどの差があり、これから自作を始める方は、まずは1W以下で楽しむ方が良いように思います。

本ページの144H5機は2019年9〜11月に製作したものですが、2025年にスプリアス対策として送信部基板を作り直し再編集しましたので、時系列的におかしな記述があると思います。また測定したときの電池電圧やトリマの位置によって0.5W〜0.7Wまでバラつきがあり、中を取って0.6Wと表記しますが、そんなことは多々ありますので、ご容赦ください。


設計編

◆特徴(2019/9/6)

  1. FT817とほぼ同じサイズのコンパクトな144MHzSSBトランシーバーで、アンテナとマイクを接続すれば即運用できる。
  2. ボリューム(回転角300度)による主同調でバンドをスピーディーにワッチ。副同調で微調整ができる。
  3. 充電池の電圧が8V以下になるとLEDが点灯し充電のタイミングを知らせてくれる。
  4. ツマミやコネクタ類は全て正面パネルに集約。
  5. スピーカーは薄型のφ50を採用し、リグを立てて使うとき手前側に来るように配置。
  6. ケースはアルミ板で自作。

仕様(2019/9/6)

  1. 周波数 : 144.140〜144.280MHz
  2. 送信出力 : 0.6W
  3. 終段 : 2SC1970
  4. 受信部 : 高1中2シングルスーパ
  5. 中間周波数 : 12.288MHz
  6. サイズ : 幅134×高さ43×奥行140mm(突起部を含まず)
  7. 電源電圧 : 10V
  8. 充電池 : 単3ニッケル水素×8本
  9. 消費電流 : 受信(無信号時=30mA)、送信(無信号時=100mA、0.6W出力時=300mA)
  10. 質量 : 650g (マイク、アンテナを含まず)

144H5機の改造(2025/8/22)

  1. 144H5機は2019年に作ったものですが、スプリアスが規格ギリギリであったため、フィルタを追加した基板を新作し交換しました。
  2. 下の回路図の赤枠部分が追加したフィルタで、Aのフィルタで主信号周辺を、Bのフィルタで2倍波を減衰させるのが目的です。

構造設計(2019/9/20)
単3×8本の電池ホルダーは長さが120mmであり、これを基準にして各パーツの配置や基板の大きさを決めて、そこに回路が収納できるようにします。

 正面パネル

基板の設計(2019/9/20)

  1. 基板は2枚に分けました。主基板にほとんどの機能を集約し、送信部基板には励振増幅と終段増幅、及び電圧降下検出部を配置します。
  2. 基板サイズは120×100mm、120×35mmの基板2枚に分け、AR-CADという無料のアプリで設計しました。
  3. 配線部分は幅1mmの直線を使い、青(送信部)、マゼンタ(受信部)、橙色(共通部)、緑(AGC部)、灰色(グランド部)のように色分けしました。
  4. ジャンパ線は幅0.5mmの自由曲線で表現します。
  5. 部品が密集しないよう全体のバランスを取りながら何度も描き直しました。
  6. 電源部分はジャンパ線を多用し、グランド同士がつながるようにして面積が増えるようにします。
  7. 設計が終わったら回路図と基板図をプリントし、赤鉛筆で塗りつぶしながら間違いが無いかをチェックします。

 送信部基板

 主基板


製作編

◆基板製作(2019/9/27)
プリント基板は1mm厚のガラエポを使います。赤枠で囲った部分は終段の2SC1970を取り付ける箇所ですが、裏側にグランド面があると2SC1970のフィン(コレクタ)との間にコンデンサが形成されてしまうため、それを避けるよう銅箔をなくしました。

 送信部基板

 主基板

試験台での調整(2019/9/27)

  1. 基板をケースに取り付けると銅箔面が隠れてしまうため部品の交換ができません。そのため画像のような試験台を作って銅箔面が見えるようにすることで、部品交換が容易になります。
  2. 動作が不安定な箇所とか、増幅度が不足している箇所などは抵抗値やコンデンサの値を変更して調整します。
  3. 調整が完了したら銅箔面に付いた半田のヤニをシンナーを含ませた綿棒でふき取っておきます。

 試験台に乗せて調整中

ケース作り(2019/10/18)

  1. ケースはアルミ板を加工して作り、正面と背面パネルは1.5mm厚、他は1mm厚を使います。
  2. 必要なサイズに切り出して曲げ、部品が取りつく箇所は穴あけをします。
  3. 組み立てたときの向きが分かるよう矢印を付けたり、上・下・A・B・C・Dなどの文字を書き込んでおくと間違いなく組むことができます。
  4. カバーを取り付けるナットはM3のカレイナットを使いました。
  5. 四角い箱を正しく作るというのは難しい作業であり、組立ててから机の上に置いてみるとガタガタするのが普通です。
  6. 加工した穴を細い丸ヤスリで長穴にしたりと微調整しますが、無理な場合は作り直す勇気も必要です。
  7. 仮に3mmの穴を正しい位置にあけようとするなら、ケガキ線を十字に入れてから交差点にポンチを打って2mmの穴を先にあけ、位置がずれていれば細い丸ヤスリで修正し、その穴に3mmのドリルを通して穴あけします。
  8. 間違えて明けた穴などは金属用パテ(セメダイン エポキシパテ金属用等)を使えば埋めることができます。

 穴加工を終えたケース部材

◆ケースへの基板収納と配線(2019/11/1)

  1. ケースを組立や基板の取付は2mmのビス・ナットを使います。
  2. 使用する場所により頭の形状として、ナベ、トラス、皿、丸皿を使い分けます。
  3. また外部にビスの頭が出る箇所は、少し高価ですがステンレスを使っておくと、いつまでもきれいです。
  4. アルミ板から基板を浮かす箇所は3mm高のスペーサを使います。
  5. 配線は0.3mmの単線を使い、送信(青)、受信(赤)など色分けしておくと見直すときに便利です。
  6. 高周波が流れる経路は同軸の0.8QEV、低周波が流れる経路は細いシールド線を使います。

   (左)主基板面 (右)送信部基板面

  外観


◆さて運用を(2019/11/15)
秋の晴れた日に144H5機と1/2λ電圧給電ホイップで移動運用してみました。宝塚市には安産祈願で有名な中山寺があり、その上にある広場は海100mほどで、ときどき移動運用に利用しています。ロケーションは東から南にかけては開けていますが、北は中山(450m)、西は六甲山(932m)があり電波は減衰してしまいます。京都コンテストが始まっており順調にQSOできましたが、木陰のベンチに座って運用していると少し風があり1時間ほどで体が冷えてきたため6局で終了しました。

 宝塚市の高台(海抜100m)で運用

日付

相手局

HIS

MY

当局運用地

相手局運用地

距離(km)

2019/11/2

JH3PPY

59

59

宝塚市(移動)

堺市南区

42

2019/11/2

JG3VHY

59

55

宝塚市(移動)

京都市山科区

45

2019/11/2

8J3AC

58

51

宝塚市(移動)

明石市

39

2019/11/2

JO4FWF/3

59

59

宝塚市(移動)

京都府綴喜郡宇治田原町

48

2019/11/2

JA3MVP

59

55

宝塚市(移動)

奈良県橿原市

54

2019/11/2

JP3SIB/3

59

59

宝塚市(移動)

京都府相楽郡笠置町

54

2021/6/20

JF5KJJ/5

59

59

宝塚市(移動)

香川県仲多度郡満濃町

155

             
             
             
             

<完了>


参考文献

  1. 高周波回路の設計・製作 鈴木憲次著 CQ出版社
  2. ビギナーのためのトランシーバ製作入門AM SSB編 千葉秀明著 CQ出版社
  3. 無線機の設計と製作入門 鈴木憲次著 CQ出版社
  4. 高周波回路設計ノウハウ 吉田武著 CQ出版社
  5. トロイダル・コア活用百科 山村英穂 CQ出版社
  6. SSBハンドブック CQ出版社