144MHzヘリカルホイップ ホームに戻る
◆はじめに(2022/11/4)
144MHzの移動先でちょっとワッチしてみたい時にヘリカルホイップは便利です。1/2λ電圧給電ホイップに比べればゲインは落ちますが、短いなりに受信でき、ぶつけても折れない安心感が移動時にはありがたいものです。以前メーカー品をコピーして作った1本はありますが、改めて作ってみようと思います。
調査編
◆ホイップアンテナとロッドアンテナ(2022/11/4)
- ホイップ(whip)とは「ムチ」のことで、モービル用アンテナのように「しなる」アンテナを意味します。
- ロッドアンテナとは伸縮が出来る棒状のアンテナで、FMラジオなどに付いている銀色のアンテナのことを言い、ホイップのようにはしなりません。
1.市販のヘリカルホイップ(2022/11/4)
- 下の画像は2mFMハンディ機に付属していたもので、全長190oでエレメント部の外径は9oですが、電気的な長さは1/4λです。
- 週刊BEACON エレクトロニクス工作室 NO.38 に外被をはがした写真があり、コイルは均等ピッチで巻かれているようです。
- コイル状のエレメントをゴム系の樹脂で覆っており、曲げに対する復元力があります。
- 日高電機製作所のHPでは「工場で指定周波数合わせ」と説明されており、周波数によって巻き数を調整しているのでしょう。
- 秋月では全長160oのものが500円で販売されています。
市販のヘリカルホイップ
2.自作ヘリカルホイップ(2022/11/4)
- 45年程前にローカル局が持っていたメーカー品の144MHzヘリカルホイップを借り、そのピッチ(間隔)のとおりに5D2V芯線絶縁体に0.8mmのウレタン線を巻いたものです。
- コネクタに近い部分はピッチが粗く、徐々にピッチは細かくなり、先端は密巻きです。
- ピッチは1回目33mm、2回目23mm、3回目17mm、4回目12mm、5回目9mm、6回目8mm、7回目5mm、8回目4mm、9回目2mm、10回目1mm 以降密巻58回 計68回
- ウレタン線の全長=コイル中心径5.8mm×円周率3.14×巻数68回+コネクタまでのリード部20mm=1258mm
メーカー品を真似してコイルを巻いた自作品
3.秋月のロッドアンテナ(2022/11/4)
秋月で販売しているロッドアンテナ(@500)で、伸縮時は120mm、伸長時は502mmです。
4.FT817付属のアンテナ(2022/11/4)
- FT817に付属のアンテナで、先端部が交換できるようになっており、長さは49mmと148mmの2種類です。
- 短い方を付けると144/430MHz、長い方を付けると50/144/430MHzで使えるとのことです。
短い方の先端部を取り付けると全長250mmになった
アンテナの評価
◆SWR測定(2022/11/4)
ホイップのようなラジアル(地線)のないアンテナを評価するには、1m四方程度の金属板の中心にアンテナを置き、周りに障害物の無い状態でSWRを測定すべきなのかもしれませんが、現実の運用からはかけ離れるため、下図のように接続し測定場所は木造家屋内とします。
◆信号強度比較(2022/11/4)
同一局を受信しながらアンテナを付け替え、その時FT817に表示された信号強度(S)を比較します。耳で聞いた範囲では余り差は感じませんでしたが、SWRの低いアンテナはS1つ多く表示されました。
No.
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アンテナの種類
|
SWR
|
信号強度(S)
|
1 |
市販ヘリカルホイップ |
2 |
3 |
2 |
自作ヘリカルホイップ |
1.6 |
4 |
3 |
ロッドアンテナ |
1.8 |
3 |
4
|
FT817付属アンテナ(短) |
1.3 |
4 |
FT817付属アンテナ(長) |
1.8 |
3 |
資料編
◆なぜピッチを変えながら巻くのか(2022/11/11)
疑問に思うのはヘリカルホイップ製作記事の殆どがコイルのピッチを段階的に「粗い→細かい→密巻」と変化させている事です。ヘリカルホイップのことが書かれた本が手元に4冊あったのでそれを紹介しますが、いずれもピッチを変えて巻く理由に関する説明はありませんでした。
段階的にピッチを変えて巻いたヘリカルホイップ
1.アンテナハンドブック (*1)
- 144MHzヘリカルホイップの製作記事があり、全体を5等分して下端はピッチが粗く、徐々にピッチは細かくなり、先端は密巻きです。
- エレメントに使うウレタン線の長さは約0.85λが目安とのことで、144MHzでは1771mmになりますが、下記アンテナのウレタン線の全長は計算上1320mm程で、0.63λになります。
アンテナハンドブックの製作記事
2.バーチカルアンテナハンドブック(*2)
- 全体を5等分し、下端のピッチに比べその上は半分のピッチ、更にその上は半分のピッチ、最後は密巻きにする。
- 別ページには3.5〜28MHzの各バンドごとの巻き数が表にされており、5〜10段階に分けています。
バーチカルアンテナハンドブックより
3.アンテナ製作マニュアル(*3)
- 21MHz用の製作記事が載っています。
- 全体を5分割してピッチを段階的に半分にしていくのは、バーチカルアンテナハンドブックの考え方に沿っています。
アンテナ製作マニュアル
4.アンテナ工学ハンドブック(*4)
- 1ページ弱にわたり解説されていますが、末尾に「ピッチ角やヘリクス径にテーパーを付けた構造のものがすでに実用化されている」との記述がありました。
- また「小型アンテナとしては効率が良く」「帯域特性を考えなければ素晴らしいアンテナである」との記述もありました。
アンテナ工学ハンドブックより
◆私的な考察(2022/11/11)
- 先端部に密巻きコイルを置くのはトップロードアンテナのようでもあり、HFの場合は全長が1〜2mになるため、高い位置に電流腹を持ち上げたいようにも見えますが、144MHzの場合は全長200mm程度なので、トップロードのように巻いてもさほどの効果は無いように思えます。
- 誰かが何かの理由で最初に考え、巻き方に関するノウハウが広まったものと思われますが、ピッチを徐々に変化させることの理由がわかりません。インピーダンスとか分布容量とか、支柱がテーパーであることの構造的なこととか、何か意味があるのかもしれないので、実際に作ってみて比較しようと思います。
製作編1
◆均等ピッチヘリカルホイップ(2022/11/18)
ネットで検索しても、VHF用で段階的にピッチを変えて巻いたアマチュア無線用の市販品は無いように思え、とりあえず均等ピッチで巻いてみます。
- 5D2Vを200mmほどに切って、外被と網線をはがす。
- 芯線内部の銅線を抜き取り、ポリエチレンの絶縁体のみにする。
- 芯線絶縁体の端から15mmの位置に斜め30度ほどの角度でφ1.2の穴を中心部まで開ける。
- 斜め穴にφ0.8ウレタン線を挿入し、端部から出す。
- 端部から出たウレタン線に3D2V用BNCジャックのセンターピンを半田付けする。
- ウレタン線を芯線絶縁体に72回巻く。ウレタン線の全長は1330mmほどになります。
- コイル部の長さを120o程に広げる。
- 送信機にSWR計をつなぎ、アンテナ端子にヘリカルホイップをつないで、SWRが1.0に近くなるようコイルのピッチを調整する。
- SWR計ではアンテナが誘導性(エレメントが長すぎる)か容量性(エレメントが短すぎる)か判らないため、出来ればインピーダンスメータがあると調整が早く進みます。
- コイル部に熱収縮チューブを被せ、ライター等で加熱して収縮させる。
- 熱収縮チューブや端末保護キャップ(ホームセンターのネジ売り場で取り扱い)を被せることで共振点は下がります。
- SWRの再調整は末端部の熱収縮チューブを少しはがし、コイルの間隔を広げたり縮めたりして行います。
5D2V芯線絶縁体に0.8ウレタン線を72回巻く
芯線絶縁体に斜めに穴をあけてウレタン線を通し、センターピンを半田付け
巻きピッチは1.6mmほどになりました
エレメントの間隔を詰めてSWRは1.1になりました
先端にφ7端末保護キャップを被せて完成
◆使用感(2022/11/18)
144MHzSSBで弱い局を受信しながら2の自作ヘリカルと付け替え、感度に違いがあるかを聞き比べましたが、差はありませんでした。
製作編2
◆段階ピッチヘリカルホイップ(2022/11/25)
- ピッチを徐々に変えながら「粗い→細かい→密巻」という具合に巻くことの適当な言葉が見つからないため、ここでは「段階ピッチ」と表現します。「均等」に対して「不均等」という言葉もありますが、ピッチがバラバラという意味にも取れるため、ここでは使いません。
- 45年程前にローカル局が持っていたメーカー品(第一電波工業?)の144MHzヘリカルホイップを借り、そのピッチ(間隔)のとおりに5D2V芯線絶縁体に0.8mmのウレタン線を巻きました。ここではそのピッチの通りに巻きます。
◆製作手順(2022/11/25)
- 5D2Vを200mmほどに切って、外被と網線をはがす。
- 芯線内部の銅線を抜き取り、芯線の絶縁体のみにする。
- 芯線絶縁体の端から15mmの位置に斜め30度ほどの角度でφ1.2の穴を中心部まで開ける。
- 斜め穴にφ0.8ウレタン線を挿入し、端部から出す。
- 端部から出たウレタン線に3D2V用BNCジャックのセンターピンを半田付けする。
- 下の表のように、芯線絶縁体に原点(巻きはじめ)から10回までの距離の位置を油性マーカーペンで付ける。
- ウレタン線を芯線絶縁体に下の表及び画像のように巻く。ウレタン線は1300mmほど準備してください。
- 送信機にSWR計をつなぎ、アンテナ端子にヘリカルホイップをつないで、SWRが1.0に近くなるようコイルの先端を少しずつ切りながら調整します。
- SWR計ではアンテナが誘導性(エレメントが長すぎる)か容量性(エレメントが短すぎる)か判らないため、出来ればインピーダンスメータがあると調整が早く進みます。
- もし切りすぎた場合はウレタン線の切れ端を半田付けし、更に長さ調整します。
- コイル部に熱収縮チューブを被せ、ライター等で加熱して収縮させる。
- 熱収縮チューブや端末保護キャップ(ビバホームで購入)を被せることで共振点は下がります。
- SWRの再調整は末端部の熱収縮チューブを少しはがし、コイルを切り詰めるか追加して調整します。
巻き数
|
ピッチ(mm)
|
原点からの距離(mm)
|
0 |
0 |
0 |
1 |
33 |
33 |
2 |
23 |
56 |
3 |
17 |
73 |
4 |
12 |
85 |
5 |
10 |
95 |
6 |
8 |
103 |
7 |
5 |
108 |
8 |
3 |
111 |
9 |
2 |
113 |
10 |
1 |
114 |
以降密巻58回 |
|
|
合計68回 |
|
|
原点からの距離の位置に印をつける
巻き終わりました
エレメントを切りすぎたのでウレタン線を追加半田付けし、SWRは1.1になりました
先端にφ7端末保護キャップを被せて完成
◆使用感(2022/11/25)
- 144MHzSSBを受信しながら @1/2λ電圧給電 A均等ピッチヘリカル B段階ピッチヘリカル を付け替え感度に違いがあるかを聞き比べたところAとBに差はありませんが、@はAとBに比べSにして2〜3は強く入感します。
- ABは@に比べマイクコードや人体の影響を受け易く、アンテナに近づくとSが低下します。
- AとBではどちらもSWR1.1まで下げることができ、受信に関して明確な差はなかったため、144MHzに関して段階的にピッチを変えて巻くことの理由は判りませんでした。
アンテナを付け替えて感度比較する (左)@電圧給電 (中)A均等ピッチヘリカル (右)B段階ピッチヘリカル
<完了>
参考文献(*印)
- アンテナ・ハンドブック CQ出版社
- バーチカルアンテナ・ハンドブック CQ出版社
- アンテナ製作マニュアル(別冊 ラジオの製作) 電波新聞社
- アンテナ工学ハンドブック 電子通信学会編 オーム社