144MHzSSBトランシーバーの製作(144H6)
◆はじめに(2021/1/29)
コロナ禍で兵庫県には2度目の緊急事態宣言が発令され、またしても外出自粛の日々となりました。自作派にとって家にいることは苦痛ではありませんが、製作意欲を持続できる課題を見つけるまでが中々大変です。さて今年のQSOパーティーでは144H5機で移動運用をしましたが、改造したい点が幾つか見つかり、その気持ちが冷めやらぬ間に次の製作にかかれば、数ヶ月は持つのではないかと思います。移動機作りは1年半ぶりで、またしても144MHz機となり「ADQは同じようなものばかり作っているな」と思われるかもしれませんが、興味がありましたらお付き合いください。
計画編
◆出力2Wを目指す(2021/1/29)
144H5機は出力1Wを目指したものの実績は0.8Wでした。1W超えしてやろうと増幅を1段増やし、下のダイヤグラムのようにストレートな配置にして4段増幅すると見事に発振してしました。増幅度を下げることで安定領域には入りますが、出力は1W出るか出ないかで、これでは意味がありません。
周波数変換後にストレート配置した4段増幅部 → 発振してしまった
◆終段だけ別基板にする(2021/1/29)
144MHzSSBトランシーバーとして1Wを超えたものは144S4(12V 2W),144S5(12V 3W),144S6(12V 3W)があり、いずれも終段は別基板にしてシールドケースに入れています。これが実績であり自作は小さな実績をいくつも積み重ねながら少しずつ階段を上るものと思います。無理して高いところを目指してたまたま成功しても、なぜうまく行ったのかが判らなければノウハウとして残りません。また失敗すればどこをどう直せば良いかで途方に暮れてしまいます。物事は少し冒険しながらも着実に進めることが必要に思います。
(成功例)背面パネルを凹まして取りつけた144S4機の終段部
◆特徴(2021/1/29)
◆仕様(2021/1/29)
◆試作機で回路を検討(2021/2/5)
144S5機(12V 3W)を9.6V仕様に回路定数を変更して実験を進め、FFTで観測した範囲では出力2Wにて余分な成分は見受けられず良好な波形と思います。
(左)144S5機を9.6V用に改造 (右)2W時の波形
製作編
◆構造の検討(2021/2/5)
基本的には144H5機の構造を引継ぎますが、終段部はケースの底部を凹ましてそこに基板を入れ、フタをすることで一応シールドケースに入れた形とします。電池はニッケル水素の単3×8とし、8本の電池ボックスがケースを作る上での基本寸法になりました。主基板にほとんどの機能を収納しますが、副基板にはスピーカー用アンプ、送受切替、電池電圧降下検出の各回路が入ります。
(左)側面部 (右)正面パネル
◆ケース作り(2021/2/12)
(左)終段基板を収納するため底部を凹ましたケース (中)M3カレイナット (右)カレイナットを側板に圧入
◆基板設計(2021/2/19)
(左)主基板 (右)終段基板と副基板
◆試験台に載せて動作確認(2021/2/26)
基板への部品付けを終え、試験台に載せて動作確認をします。受信部は試作機と同程度の感度ですが、送信部は思ったほどパワーが出ず少し不安定な感じがします。これからは試作機と各部の動作レベルを比較測定しながら、何が違うかを見つけ出す作業が続きます。高周波において回路図は全く同じでも、部品配置や配線経路が違えば別物として扱う必要があるのは、こんな時にしみじみと味わうものです。
試験台に載せた144H6機の基板
◆トラブル対策(2021/3/5)
空芯RFCをフェライトビーズ(赤丸内)に交換して不要な結合を防ぐ
◆調整のポイント(2021/3/5)
アンテナ端子の波形 (左)同調がズレVXOの132MHzの成分が出ている (右)同調回路を調整し132MHzの成分を抑え込む
◆ケースに基板を取り付け配線と調整をする(2021/3/12)
底部の蓋は外しています
FT817とのサイズ比較
◆目盛りとレタリング(2021/3/12)
ダイヤルの周波数表示、ボリュームの目盛りや文字についてはCADで書き、厚手の光沢ハガキ用紙にインクジェットプリンタで印字し、両面テープで正面パネルに貼り付けました。本来なら塗装後にレタリングして透明スプレーで保護をするのですが、その作業がなかなか大変なので今回も簡易的な手法を取りました。
◆放熱方法(2021/3/19)
終段の2SC1971はエミッタがフィンに接続されているため、絶縁シートを間に挟むことなくケースに直接取りつけて放熱することが出来ます。終段基板を切り欠いた部分に2SC1971が半田付けされており、フィンをケースにビスで固定しました。
2SC1971のフィンをケースにビスで固定
◆VXO部のカバー(2021/3/19)
VXOの発振部に0.6mmアルミ板で作った小さなカバーを被せ、リグ内の温度変化を緩やかに受ける構造としています。カバーはM2×10の高ナット2本で固定し、コアを回すための小さな穴を開けています。
(左)VXOカバー (右)カバーを外したところ
◆出力波形の観測(2012/3/19)
アンテナ端子にダミーロードをつなぎ出力をFFTで観測してみると出力2Wにて下の画像のような波形になり、モニタするときれいな音に聞こえます。送信部で周波数変換後にストレートな配置で4段増幅したものは異常動作で失敗しましたが、終段部別基板のシールドケース収納で今回もうまく行き、成功体験になりました。
出力2W時のFFT画像
◆周波数変動の測定(2012/3/26)
VXOの出力部(132MHz)の周波数変動を測定してみました。電源ON後の1、2分は100Hzほど変動しますが、その後は50Hz/10分ほどです。VXOの可変範囲が220kHzありQRHを心配しましたが、私が基準とする100Hz/10分以内に入っており、10分程度のQSOならばダイヤルを合わせ直す必要はありません。
◆電源電圧と出力(2012/3/26)
電源電圧を変化させた時の出力は以下のとおりです。
部品編
◆周波数関係(2021/3/26)
144H5機ではVXOに池田電子で買った10個300円の44MHz水晶と、フィルタは1個40円の12.288MHz HC49USを使いましたが、部品箱の中には以前に買った部品が多数残っており、それを使うことにしました。VXOの水晶は川崎電波へ注文した14.783MHzのHC49U型で1500円ほどしたでしょうか。フィルタはミズホ通信の11.2735MHzで20年ほど前にサトー電気にて4000円で購入したものです。また当HP読者の方から送っていただいたパーツもありがたく使用しています。
(左)川崎電波へ特注したVXO用水晶 (右)ミズホ通信のクリスタルフィルタ
◆可変抵抗器(2021/3/26)
(左)使用する可変抵抗器 (右)軸のスリワリ部にアルミ板をはさんだところ
◆トロイダルコアとトリマコンデンサ(2021/4/2)
(左)トロイダルコア T25−12 (右)セラミックトリマ
(左)複同調部 (右)コアの中心を貫いてφ0.5のウレタン線を2回巻く
◆バリキャップ(2021/4/2)
富士通のバリキャップ FC54M
◆バラモジのIC(2021/4/2)
NE612(SA612等)は500MHzまで使える仕様であり、イーエレにて320円で購入しました。外付け部品が少ないのでバラモジ部は簡素化でき、また使わない2、7ピンはパスコンでグランドに落としてバランスが崩れないようにします。
NE612AN
◆リレー(2021/4/9)
アンテナ回路の切り替えはオムロンのリレー「G5V−1 9VDC」を使い、消費電流は9.6Vで18mAでした。この回路はダイオードのMI−101を使うこともありますが、今回はパワーに余裕があり回路の簡略化のためリレーにしました。リレーのコイルと並列にダイオードの10D1を接続しサージ電圧による回路の故障を防いでいます。
G5V−1
◆S/RFメータ(2021/4/9)
(左)固定金具とS/RFメータ (右)メータの振れ過ぎ抑制ダイオード
◆接続ピン(2021/4/9)
(左)φ0.9の銅線をL型に曲げる (右)単線を巻き付ける
◆スピーカー(2021/4/9)
(左)ピンコネクタ (中)ピンコネクタを2個ずつ使ってオス/メスの端子を作る (右)端子を接続したところ
◆充電池と電池ケース(2021/4/9)
(左)単3エネループ8本 (右)電池ケース取り付け皿ビス
◆最後に(2021/4/9)
2度目の緊急事態宣言が発出された頃から試作を始め、2ヶ月余りご覧いただきました144H6機の製作記事は今回をもって終了いたします。当初目標にしていた電気的な性能は達成できたので、残すは運用を重ねて使い勝手等のリグの評価となりました。完成した喜びは当然ありますが、部品のほとんどは40年前に購入できたものにも拘わらず、ICOMのIC221で144のSSBにデビューした当時はAMの自作経験しかなく、SSB機を作りたくてもどこからどう手を付けて良いのか判らない状態で、リグとしてまとめ上げる力が無かったんだなあとしみじみ思います。自作というのは半田付けが出来れば良いと言うのではなく、構想、試作、回路設計、構造設計、部品の調達、ケース加工、基板作り、配線、組立、調整、塗装、トラブル対策等々、1つの企業のように様々な工程を経ねばならず、それぞれの経験に裏打ちされた自信の積み重ねがないとゴールには到達できないし、これはどんな趣味でも1人で取り組む場合は同じことと思います。さて関ハムとかで実機を見ていただくことができれば良いのですが、コロナ禍はそれも許してくれず、移動地からの電波が聞こえておりましたら、お相手をよろしくお願いいたします。
宝塚市山手台南公園での試運転
◆運用実績
日付 | 相手局 | HIS | MY | 当局運用地 | 相手局運用地 | 距離(km) |
2021/5/4 | JH2FTE/3 | 59 | 59 | 兵庫県宝塚市(移動) | 滋賀県米原市 | 100 |
2021/5/4 | JF3FGL/3 | 59 | 59 | 兵庫県宝塚市(移動) | 大阪府交野市旗振山 | 32 |
2021/6/6 | 8J3XXV/2 | 59 | 59 | 兵庫県宝塚市(移動) | 三重県津市青山高原 | 76 |
2021/6/6 | JE4MEA/3 | 55 | 55 | 兵庫県宝塚市(移動) | 和歌山県伊都郡高野町 | 70 |
<完了>