430MHzトランスバータの試作(430T1) ホームに戻る
◆はじめに(2024/3/1)
430MHzというのはHFやVHFの感覚とは違い、部品をつなぎ合わせれば所定の性能が出るというものではありません。そのため今回の製作に関しては実績のあるサーキットハウスの回路や配置をほぼ踏襲し、部分的に簡素化した回路でスタートします。なお使用する部品は数十年前に購入し、現在では入手困難なものも含まれていますが、手持ち部品に陽の目を当てることも目的としているため、ご理解ください。
◆430MHzSSBの様子(2024/3/1)
430SSB.NETというサイトがあり、各エリア間でのスケジュールQSO日程が紹介されています。またそこには載っていませんが3エリアでは毎日20:30から430.170MHzで数局が電波を出しています。全国的には430SSB祭りという10/1〜10/31までのコンテストがあり、そういった機会を通じてQSOが期待できるでしょう。ホームページに書いてある「飛ばない、聞こえない、だから面白い」という言葉に技術心をくすぐられる思いがあり、いささかマンネリになってきた自作生活に新しい風を吹かせたいと思っています。433MHzFMでCQを出してからSSBに誘導するという手法もあり、各局色々と工夫して430SSBを楽しんでおられます。
◆ブロックダイアグラム(2024/3/1)
42.666MHz水晶の手持ちが無くなったため、以前池田電子で10個300円で買った41.333MHzの水晶が数個残っており、今後はこれを使うことにします。9逓倍すると372MHzになり、親機の入出力周波数は430-372=58MHzで、VXOの水晶は44MHzに変更します。希望としては数Wの出力にしたいのですが、何せノウハウも部品も無いため、まずは100mWを目指します。
受信部
◆受信部の回路実験(2024/3/1)
- 430MHzを58MHzに変換するいわゆるクリコンです。サーキットハウスのキットでは高周波増幅と混合にはSGM2006MというSONYのGaAsチップタイプのFETが使われていますが今は入手困難です。
- 秋月で調べるとNE76084というSHF用のGaAsFETが200円で販売されており代替できそうですが、とりあえずは3SK78というUHFチューナー用のFETで、40年以上前に購入した物が10本程残っていたため、これを使うことにします。
- なお発振段の水晶と直列にマイクロインダクタの1.2μHを入れていますが、これは発振周波数が41.333MHzまで下がりきらなかっためVXOにしました。20PFトリマだけで調整できる場合は不要です。
◆空中配線(2024/3/8)
- 430MHzとなると私が得意とする平ラグ板を使った配線方式では、余分なインダクタンスやキャパシタンスが悪さをして成り立ちません。
- 回路検討のため空中配線で進め、サイズは80mm×100mmの片面ベーク基板の銅箔面に部品を取り付けます。
- 電源ラインは5mm幅に切った基板を両面テープで銅箔面に貼り付けています。
- 高周波増幅の3SK78は入出力コイルの結合を防ぐためシールド板を設け、金属ケースはグランドに半田付けしています。
(左)空中配線した受信部 (右)高周波増幅3SK78のシールド板
◆受信感度不足(2024/3/8)
八重洲のFT817と受信感度比較するとSにして2〜3低かったため、混合部3SK78の後に2SK241のアンプを1段追加すると、Sメータの振れは良くなったもののノイズも増えました。FT817では聞こえる信号が本機ではノイズに埋もれることがあり、NF値の低い素子を採用する必要があるのでしょう。ただメーカー機と張り合う気持ちは無く、あくまでも100mW出力のトランスバータとして必要な性能を持っていれば良いと思っています。
→ (左)受信部 (右)アンプを追加
送信部
◆送信部の回路実験(2024/3/15)
- 58MHzジェネレータと局発の信号をそれぞれ50Ω3dBのアッテネータで受け、DBMで合成して430MHzの信号を作り、3段増幅して100mWの出力を得ます。
- 調整作業を容易化するため送信部にも局発部を付けました。
- DBMにショットキーバリアのクワッドダイオードND487C-3Rを使った例として、局発側の入力電力は2mW〜16mWが適当とのことです。(*5)
- また別の文献(*2 P152)にはTV用メガネコアと1SS16×4を使ったDBMの使用例として、入力(50MHz
1mW)、局発(380MHz 10mW)、出力(430MHz 0.1mW)という記述があり、1つの基準として覚えておきましょう。
- 「DBMでは局発の注入レベルが低いと変換損失が大きくなり、R&K
M9(DBMの商品名)の場合には10dBm(10mW)程のレベルが必要です」 (*8
P172より引用)
- DBMで入力信号をスイッチングするには上記のような出力が必要で、局発部には60mAほど流しています。トランジスタとかFETで混合する場合とは違う感覚に戸惑います。
- 発振をVXOにしたため電圧変動によってわずかにQRHが生じるため、三端子レギュレータによって電圧を安定しています。
◆回路を組む(2024/3/15)
- 受信部と同じように80mm×120mmの片面ベーク基板の銅箔面に部品を取り付けます。全体は空中配線ですが、電源ラインは幅5mmの細長いベーク基板を両面テープで貼り付けます。
- DBMは1mm厚のガラエポ基板を20×10mmに切り出し、画像のように10個のブロックに彫刻刀で溝を入れました。そこにメガネコアに巻いたトランスとダイオードを半田付けします。狭い場所に集約しているため、確実に半田付け出来ているかどうか、ルーペを使って確認しておきましょう。
- コイルは空芯で同じ向きのため入出力の結合を防ぐよう、間に銅板で作ったシールド板を入れグランド面に半田付けしました。
- シールド板には幅3mm×長さ8mm程の切り欠きを設け、結合コンデンサの15PFや102をまたぐような形で取りつけています。「配線をしている」というよりは「工作をしている」という印象が強いです。
- BPF(バンドパスフィルタ)の2個のコイルは干渉を避けるため直角に配置します。
(左)DBM基板 (右)部品を取り付け
メガネコアのコイル巻き方(*1)
シールド板
BPFのコイルは直角配置
◆調整する(2024/3/22)
- 入力端子には出力5mWのSSBジェネレータをつなぎ、出力端子にはQRPパワー計をつなぎます。
- 全ての回路を組んでからではなく、各増幅段ごとに配線を進め、高周波電圧計と周波数カウンタを併用しながら、正しい周波数に同調するよう各コイルのコアやトリマを回して出力を最大にします。
- 同調点が近くに複数ある場合は異常発振を起こしています。前段あるいは後段のトリマを調整して異常発振が止まるようにします。あるいは、コイルのタップ位置をコールド側(電源側)にずらしてみます。
- 出力は最大150mWになりましたが、出力を増やすと動作が不安定になるため、コイルのコールド側に抵抗を追加したり、デカップリングのチョークコイルを変更したり、パスコンを2個にしたり、と対策をしました。
- 空中配線ではチップコンが使えないため、パスコンにはリード線タイプのセラミックコンデンサ使い、リード線は極力短くします。配置の関係でリード線が長くなる場合は、短く切った銅板をグランド面に半田付けし、そこにリード線を半田付けしました。
- 送信電波を別のリグで受信しながら、音声は素直な音か、歪はないか、などリニアに増幅されていることを確認します。
- 終段の2SC2407にはコレクタ電流40mAで出力100mW、60mAで150mWとなりました。終段の効率は21%で余り良くはありません。
- 正常な動作を確認出来たら、各増幅段の電流値を回路図に追記しておきましょう。
励振増幅2SC3355のエミッタに接続するパスコンのリード線を短くするため、グランド面に追加した銅板
送信部基板
◆試作を終えて(2024/3/22)
自作というものは暗中模索の状態から始まり、様々な試行をしながら「こうやれば、こうなる」という道筋を見つける所に楽しみがあり、守備範囲が広くなった事で達成感が満たされます。しばらくの間は自己満足に浸れますが、時間が経つと興味が薄れて次の課題を探し始めるという、趣味とは移り気で厄介なものですね。さて、試作段階を通じて少し霧が晴れてきたので、来週からは送信部・受信部・局発部・送受切替部を1枚の基板の上に組んだトランスバータを紹介していくことにします。
<完了>
参考文献
- 50→430MHzトランスバータキット CV607B回路図 サーキットハウス社
- アマチュアのV・UHF技術 CQ出版社
- HAM Journal 1991年4月号 50→430MHzトランスバータの製作 JA6RWM
上村誠
- HAM Journal 1991年4月号 430→144MHzクリスタルコンバータの製作 JA6WVR
坂梨健次郎
- 高周波回路の設計・製作 鈴木憲次著 CQ出版社
- 高周波回路設計ノウハウ 吉田武著 CQ出版社
- ダイナミック・ハムシリーズ リニアアンプスタイルブック CQ出版社
- AYO'sハム機器の製作 丹羽一夫著 CQ出版社