430MHzトランスバータの製作(430T2) ホームに戻る
◆はじめに(2024/9/27)
430MHz100mWのトランシーバ430S1を製作し、その後1Wのリニアアンプ430L1を作り430S1に収納しました。430S1はサーキットハウスの回路を参考に手持部品を活かすなどの回路変更をしていますが、改善したい箇所がいくつかあるため、基板1枚にまとめた出力1Wのトランスバータを作ろうと思います。
◆430T1機からの変更点(2024/9/27)
- DBM部で使用するメガネコアは430T1機ではサーキットハウスのキットで使っているものを再利用しました。今回はサトー電気で@110にて購入したものですが在庫は少ないようです。テレビに接続するF型アンテナプラグの内部に75Ω→300Ω変換コイルがあれば、そのコアを使っても良いでしょう。
- DBM後の増幅を2SK125パラを2SC3355に変更し消費電流を減らす。(2SK125パラの消費電流は31mA)
- 2SC3355の入力段は複同調にしてスプリアスの低減を目指す。
- 励振増幅の2SC3019はUHF用で0.5W程出る4本足の石ですが、以前144MHzの終段として使ったものが幾つか残っており、それを使うことにします。この石はサトー電気で入手でき、価格は@330です。
- 終段に2SC3006を追加し出力1Wを目指す。1枚基板でストレート4段増幅は動作が不安定にならないかという心配はありますが、各段間のシールドと電源周りのデカップリングで対策をします。
(左)終段の2SC3006 (中)励振増幅の2SC3019 (右)DBMに使うメガネコア
◆基板の設計(2024/9/27)
- 基板のサイズは150×70mmで1mm厚のガラエポ基板を使います。
- UHF部の同調回路は空芯コイルを使っており、各段の不要な結合を防ぐため真鍮のシールド板を設けています。
- 安定した動作にはグランド面を広く取ることが必要なため、電源周りはジャンパ線を多めに使い、グランド面を出来るだけつなげるように心がけます。
- 共通部はオレンジ色、送信部は青色、受信部はピンク色、検出部は黄緑色、シールド板は黄緑色の破線、空芯コイルは水色、グランドは灰色で色分けし、チェックしやすいようにしています。
- 各部取付位置には黒色のドットを付けており、そこを狙って穴開けをします。
基板のパターン図
部品取り付け位置には黒色のドットを付け、穴開け中心としている
◆基板の製作(2024/10/4)
- 秋月で販売している片面銅張基板はパナソニックのエクールという白っぽい素材を使っており、熱伝導性が良いとのことで放熱に期待が持てます。
- 上のパターン図を裏返して印刷し、幅50mmの透明ビニールテープを貼って印刷面を補強し、両面テープで銅箔面に貼り付けます。
- パターン図の部品取り付け位置にφ1の超鋼ドリルで穴をあけます。
- 半固定トリマと7Kコイルの足が取りつく穴はφ1.2のドリル、四隅のM2のビスが取りつく穴はφ2.2のドリル広げます。
- 表面を細かいサンドペーパーで磨き、流水で洗った後、シンナーで汚れや油分をぬぐい取る。
- 銅箔面に指の脂が付くと、エッチング時にマジックインキの被膜が剥がれてしまうことがあるため、ティッシュペーパーで覆いながら、マジックインキNo.700(ゴクホソ)でパターン図を書く。
- 塩化第二鉄溶液に基板を浸してエッチングする。
- 銅箔面のマジックインキの膜をスチールたわしで落とし、水洗いする。
- 銅箔面を細かいサンドペーパーで磨き、シンナーで汚れと油分をぬぐい取る。
完成した基板
◆空芯コイルの巻き方(2024/10/4)
- L1〜L9の空芯コイルは0.8のスズメッキ線を使います。
- L9以外はφ8の丸棒(色鉛筆など)に1回巻き、両端はラジオペンチで挟んで直角に3mm曲げ、基板に差し込むピッチ(間隔)は17mmになるよう全体を整形します。
- 1回巻き部をつぶして長円型にしたり、巻き方向を変えたり(右巻き→左巻き)、巻き部をホット側かコールド側に寄せた方がタップ位置までのリード線長を短く出来る場合があるので、状況に応じて整形してください。
- L9は20mmのスズメッキ線をU字型に曲げ、ピッチは8mmとします。
- タップの位置はコールド側(電源側)からの距離を示します。
空芯コイルの巻き方とタップ位置
◆DBMコイル(2024/10/4)
- サトー電気で購入した「メガネコア小 幅高奥7x4x5mm」を使い、φ0.26のウレタン線2本をよじってから巻きます。色違いのウレタン線があればそれを使ってください。
- 同色ウレタン線の場合は巻いてからでは区別がつきにくいため、事前に片方のウレタン線にはマジックインキ等で両端を着色しておきます。
- 巻いてからも念のためテスターで導通を確認し、接続を間違えないようにしてください。
◆使用するトランジスタの接続電極(2024/10/4)
トランジスタの足に接続されている電極の順番は、型番が印字されている平らな面からみて、左からECBとの並びに慣れてしまっていませんか。2SC3355や2SC2407は左からBECとなっており戸惑ってしまうかもしれません。新しい石を使うときはトランジスタ規格表で確認しておきましょう。また4本足の2SC3019と2SC3006も下図のようになっているので注意しましょう。
使用するトランジスタの接続電極
<続く>
◆部品取り付け(2024/10/11)
- 基板の四隅にM2の支柱を取りつけておくと、半田付けの際に基板が安定します。
- 入出力端子として0.9mmの銅線または真鍮線(ダイソーで購入)をL型に曲げた接続ピンを作り、余白に極細マジックインキで機能を書いておきます。
- 終段2SC3006を取りつける位置には7mm角の穴をあけておきます。
- 部品の取り付けはブロックごとに行い、動作確認をしながら次に進みます。
- パスコンの102(0.001μF)はチップコンデンサを使います。過去の失敗談ですが何らかの不具合でチップコンにクラックが入り、パスコンとしての機能を果たさず性能が出なかったことがありました。そのため回路図には書いてありませんが、保険としてチップコンは2個付けています。
- DBM部は配置上のバランスが大事であり、ダイオードのリード線が長くならないよう、基板の表側に3個、裏側に1個を半田付けし、また1つの穴にリード線を2本通している場所もあります。
- UHF帯では半田のヤニ(フラックス)が悪さをします。半田付けが終わったら綿棒にシンナーかアルコールをしみこませ、きれいにぬぐい取っておきましょう。
- また銅箔面に付いた細かいごみは歯ブラシできれいに掃除をしておきます。
(左)四隅に立てた支柱 (中)接続ピンと機能表示 (右)2SC3006取付貫通穴
局発部の動作確認を行う
送信部は各段毎に動作確認し、部品付け完了
DBM部 (左)表側 (右)裏側
◆シールド板の製作と取付(2024/10/11)
- シールド板は0.3mm厚の真鍮板を使います。以前銅板を使ったことがありますが、熱伝導率が真鍮の3倍で半田ごての熱を持って行かれ苦労しました。
- 真鍮板を幅15mmの帯状に切り、図面に従い必要な長さに切り分けます。
- 配線をまたぐ位置には切り欠きを付けておきます。
- プリント基板側には0.9mm銅線の支柱を立てておき、そこにシールド板を半田付けします。
(左)基板の中に15本の支柱を立てる (右)支柱
(左)シールド板の切り欠き(赤枠内) (右)シールド板取付完了
◆動作確認(2024/10/18)
- これまでに各段の部品を取り付けながら段階的な調整は行ってきましたが、正式にシールド板を取り付けたのちに再調整します。
- 12Vの電源とアンテナ端子にQRPパワー計を接続し、SSBジェネレータからの58MHzの信号を加えます。
- 変調音に問題が無いか、430SSBが受信できるトランシーバーでモニタしておきましょう。
- 出力が最大になるよう各トリマを再調整すると、ピークで1.5W出るようになりました。
- 各増幅段の電流値を測定し回路図に記録しておきます。
- 出力1W時における終段のコレクタ電流は230mAとなり、入力は12V×0.23A=2.76W、効率は36%になりました。
◆トランジスタの温度上昇(2024/10/18)
励振増幅の2SC3019と終段増幅の2SC3006の温度上昇を調べてみました。
- 測定開始時の室温25℃で、送信出力を1Wに設定し、5分間におけるトランジスタの表面温度を赤外線温度計にて1分ごとに測定します。
- 励振増幅の2SC3019は底面にシリコングリスを付け、放熱特性が良いとされるエクールという基板に密着させています。3分で25℃上昇し、その後は安定。
- 終段増幅の2SC3006には30×30×1.5mmのアルミ板を放熱器として取り付けており、5分通電で13℃上昇。
- 2SC3019の表面温度は50℃まで上がりましたが、この石は直径3.8mmという小ささであり、放熱器といっても構造的に難しい面があります。実際の運用では連続5分フルパワーで出すことはないため、放熱器なしで進めようと思います。
(左)2SC3019の取付 (中)2SC3006の放熱器取り付け面 (右)2SC3006の放熱器
2SC3019と2SC3006の5分送信時における表面温度
◆430S1機に組み込む(2024/10/18)
- 430S1機から100mWトランスバータと1Wリニアアンプ430L1を外し、今回製作の1Wトランスバータを取りつけました。
- 再度トランスバータとジェネレータのトリマやコアを調整し、それぞれの増幅段が最高の性能を出せるようにします。
- ただし発振気味になった場合は、ソースやエミッタの抵抗を増やしたり、コイルにQダンプ用の抵抗を入れるなどの対策が必要です。
430S1機 (左)430⇔58MHzトランスバータ部 (右)裏側の58MHzSSBジェネレータ部
IC351でモニタしながら調整。アナログメータのリグは目盛りが読みやすくて助かります
◆製作を終えて(2024/10/18)
経験のないことに取り組むとき、期待と不安が入り交じります。今の実力を100としたとき、いきなり200や300の目標は高すぎて取り組んでも失敗し、挫折を味わうことになるでしょう。しかし110とか120なら大きく失敗することは無く、何とか成功に近づくことができると思います。200という目標に向かって、今回は110まで、次回は120まで、そして130,140・・・と進めば高いと思われた目標をクリアできるはずです。小さな成功体験や失敗体験を積み重ねることで判断基準が身に付き、それは次のステップへの自信につながります。
私は現在74歳ですが、これまで出来なかったことが毎日半歩でも進めば、少しずつできるようになっていくことを実感しています。今回製作のリグは技術的には40〜50年前の内容で、メーカーならばとても商売になるようなものではありません。アマチュアの良いところは技術的に古いものであっても自分にとって新しいのなら、未知の領域に挑み自分のものにしていく感動を味わえることです。
<完了>
参考文献
- 50→430MHzトランスバータキット CV607B回路図 サーキットハウス社
- アマチュアのV・UHF技術 CQ出版社
- HAM Journal 1991年4月号 50→430MHzトランスバータの製作 JA6RWM
上村誠
- HAM Journal 1991年4月号 430→144MHzクリスタルコンバータの製作 JA6WVR
坂梨健次郎
- 高周波回路の設計・製作 鈴木憲次著 CQ出版社
- 高周波回路設計ノウハウ 吉田武著 CQ出版社
- ダイナミック・ハムシリーズ リニアアンプスタイルブック CQ出版社
- JR8DAG 菅野さんの製作記事