21MHzSSBトランシーバ(21H2)回路の解説 21H2本文へ戻る
1.共通部
◆VXO部(2023/1/20)
- 使用した水晶は池田電子で購入した16.630MHzのHC49Uタイプのもので、発振したのち2逓倍して33MHzの上側ヘテロダインとして使います。
- 7K型コイルの複同調を通した出力は下の画像のように高調波が抑えられ、きれいな波形になりました。
- 下側の周波数が33.140MHzになるようT7コイルのコアを回して設定すると、上側は33.280MHzほどになり、これでトランシーバとしての可変範囲は21.140〜21.280MHzになります。
- バリコンは使わずバリキャップのFC54Mを使うため、三端子レギュレータで電圧を安定化させる事は必須です。
- 主同調は100KΩB型の通信機型VRを使い、副同調も通信機型を使いたいところですが、スペースが無いため5KΩの角型VRを使いました。
- VR1の中間端子に接続しグランドに落とす100KΩは、周波数の直線性を良くするためのものです。
- VXOとは言え温度変化は受けるもので、それを補正するためC1とC2は-750ppm/℃の温度補償用セラミックコンデンサを使っています。
- 2SC1906のエミッタと2SK241ゲートを結ぶコンデンサは5Pを使っていますが、これを大きくすると送信と受信で負荷の違いにより周波数のズレが起きるため、出来るだけ小容量のコンデンサを使う事が必要です。
(左)VXOからの33MHz出力波形 (右)FFTにてスプリアスを観測
VXO回路
◆クリスタルフィルタ(2023/1/20)
- HC49U型の水晶を6個使ったラダー(ハシゴ)型のフィルタです。
- 水晶の端子間容量は実測で4.2PFであり、通過帯域を2.4kHzとしたとき、組み合わせるコンデンサはフィルタの計算式から62.7PFになるため、両端は62PFで中央部は62×2≒120PFを使いました。
- 62PFの横にある1KΩは送受切り替えに使うダイオードの電流を流すために入れているものであり、フィルタとは関係ありません。
- 下のグラフは6素子クリスタルフィルタを組み通過帯域を測定して描きました。
(左)12MHz 6素子クリスタルフィルタ特性 (右)ラダー型クリスタルフィルタ
◆電圧降下検出(2023/1/20)
- 移動運用局でフニャフニャした変調の音を聞くことがありましたが、これは電池電圧が下がった事を気付かずに運用している時に出る音です。
- 最近のリグは電池残量なども表示してくれるため、このようなことは無くなりましたが、私が作る電池内蔵のトランシーバには必ずつけている回路です。
- 電圧が下がると初段の2SC1815がOFF状態になり、コレクタの電圧が上がります。すると2段目の2SC1815のベース電圧が上がってON状態になり、コレクタ電流が流れて赤色高輝度LEDがチカリと光って電源電圧が下がったことを知らせてくれます。
- ニッケル水素充電池では充電のタイミングはセル単体で0.9〜1Vに下がった時であり、6本の場合は6V、8本の場合は8VになるとLEDが光るように設定しています。
- 回路自体の消費電流は0.4mAほどで、電圧降下を検出してLEDが光ると2mAほどになります。
電圧降下検出回路
◆送受切替(2023/1/20)
- コンプリメンタルトランジスタ 2SC2120 と 2SA950
による無接点の半導体スイッチで、スタンバイスイッチをON/OFFすることで送受の電圧を切り替えます。
- スタンバイスイッチがOFFの場合はRX側に電圧が出ていますが、スタンバイスイッチをONにすることで、TX側に電圧が出て、RX側はOFF状態になります。
- 回路としての消費電流は送信状態で約20mA、受信状態はほとんどゼロとなり、ほぼリレーを使った回路と同じです。ただし無負荷状態でも電圧降下が0.4Vほどあります。
◆アンテナ切替(2023/1/20)
- アンテナの切り替えはオムロンのG5V-1という1回路2接点9Vのリレーを使い、コイルには整流用ダイオードの10D-1を接続してサージ電圧を吸収しています。
◆充電池と充電端子(2023/1/20)
- 充電池はニッケル水素の単3電池を8本使います。
- 充電端子からは逆流防止用のダイオードを通して充電池に電圧を加えます。
- 充電中であることを示すため黄色のLEDを光らせます。
2.送信部
◆低周波増幅部(2023/1/27)
- コンデンサマイクの使用を前提としており、入力端子に4.7KΩを接続してマイク用の電源としています。
- 2SC1815のベースには6.8KΩと223(0.022μF)による簡単なローパスフィルタを入れました。
- 電源部には470Ωと103を2個使ったデカップリング回路を入れて、高周波の回り込みを阻止しています。これを省略してひどい変調音になった経験があり、必須の回路です。
◆平衡変調部(2023/1/27)
- NE612ANにより発振した12MHzのキャリヤとマイクアンプからの信号を平衡変調して、キャリヤを抑えDSB波を作ります。
- 水晶と直列に入っている3.3μHは、VXOとして動作させるためのコイルです。
- 平衡変調部の1SV101には常時電圧をかけていますが、アンテナ調整用にキャリヤを出すときは電圧を切って発振周波数を400Hz程下げ、またNE612の1ピンに電圧をかけることで平衡を崩してキャリヤを発生させます。
◆周波数変換部(2023/1/27)
- これまで作ってきたトランシーバの周波数変換部に使用するICは当初ピコで有名になったSN16913Pでしたが、100円程度で入手出来たものの生産中止になってからは価格が急上昇しており、その後80円程度で買えるFMフロントエンド用のTA7358Pを使い、今は500MHzまで使用可能なNE612AN(320円)を使うようになりました。
- 使用上の注意点として電源電圧は4.5〜8V、入力電圧については0.1V以下にすることが歪少なく動作させるためのポイントです。
◆励振増幅部(2023/1/27)
- 周波数変換し、複同調回路を通した後2SK241で増幅しますが、動作安定化のためドレインに100Ωを入れています。これでも発振気味であればゲートに4.7KΩ程度の抵抗を入れて異常動作を抑えます。
- 終段をドライブする励振増幅部では2SC2053を使い,、ベースバイアス部にシリコンダイオードの1S2076Aを入れていますが、これがあることで電源電圧が下がっても出力が下がりにくいというメリットがあります。
◆終段部(2023/1/27)
- 終段のトランジスタは2SC1971を使います。エミッタがフィンにつながっているため、フィンをケースにねじ止めすれば放熱が出来るという便利な構造です。
- ベースにつながっている4.7Ωは変化する入力インピーダンスに対し影響を受けにくくするためと、異常発振防止用として入れています。(*1)
- ベースバイアス部の10μHはこれまで47Ωほどの抵抗を使っていましたが、これを10μに替えることで出力がぐんと増えました。21MHzにおける10μHのリアクタンスは1319Ωであり、47Ωでは損失が多いようです。
- 入出力部はインピーダンスを整合することが必要であり、入力部L1とコンデンサ、出力部L2とコンデンサの値については終段回路の設計ページの計算式を使って求めました。最終的な調整は出力が最大になるようトリマコンデンサで行います。
◆ローパスフィルタ(2023/1/27)
- トロイダルコアT37-6と150PFのコンデンサを使ったLPFで高調波の通過を阻止します。LPFの計算式
◆出力波形の観測(2023/1/27)
- 試作機で出力波形を観測してみました。アンテナ端子に50Ωのダミーロードを取り付け、デジタルオシロ(テクトロ TB1052B)で測定です。
- ツートーンジェネレータの波形では交差部が「X字」になっているのでクロスオーバー歪はなさそうですが、入力を増やすと飽和波形になりました。
- FFTによる波形観測では目立ったスプリアスはなさそうです。
(左)ツートーンジェネレータの波形 (右)2W出力波形(FFTの1目盛りは25MHz)
3.受信部
◆高周波増幅と混合部(2023/2/3)
- 入力部には過大入力防止用にシリコンダイオードを2個並列に逆接続したものを入れました。主目的ではありませんが、SWRが悪いアンテナをつないだ時に受信部が発振気味になるのを抑える効果があります。
- 高周波増幅は2SK241GRを使った回路で、ゲートにはAGC電圧をかけ、利得を制御します。
- 混合部も2SK241GRを使った回路で、21MHzの入力信号とソースに加えられたVXOからの33MHzの信号を混合して12MHzの中間周波信号を作ります。
◆中間周波増幅と検波部(2023/2/3)
- 中間周波増幅は2SK241GRによる2段増幅で必要なゲインを確保しますが、ゲイン不足あるいは過剰な場合はソース抵抗を増減してください。
- ゲートにはAGC電圧を加えています。
- 検波部はショットキーバリアダイオードの1SS108を4個使った回路に、局発からの12MHzの信号を加えて低周波信号を作ります。
- ショットキーバリアダイオードはゲルマダイオードと同じように0.2Vあたりから動作しますが、入手しにくい場合はゲルマの1N60等を使ってください。
◆低周波増幅とAGC増幅部(2023/2/3)
- 低周波増幅部は一般的な自己バイアス回路で、ゲインはエミッタ抵抗を増減することで調整できます。
- あるいは100Ωと並列に10μ程度の電解コンデンサを接続しても増やせます。その時は高音が強調された音になりますが、「サー」といったノイズが気になるかも知れません。
- AGC増幅は低周波信号を倍電圧整流してマイナス電圧を作り、それを高周波増幅や中間周波増幅部に加えることで利得を制御します。
- 整流後の220μは平滑コンデンサで、これが小さいとモーターボーディングのような「ボコボコ」といった音が発生します。大きいと安定しますが、AGCの立ち上がりが遅くなります。
- またAGC電圧を利用してSメータを振らせています。
◆クリックノイズ抑制と電力増幅部(2023/2/3)
- 送受切替の時に発生する「ガリッ」というノイズは耳障りなもので、それを抑制するための回路を入れています。
- スピーカーを鳴らすための電力増幅部はおなじみのLM386を使います。
<回路の解説は以上です> 21H2本文へ戻る
参考文献 (*印)
- 高周波回路の設計・製作 鈴木憲次著 CQ出版社
- ビギナーのためのトランシーバ製作入門AM
SSB編 千葉秀明著 CQ出版社